米国の10年国債利回りが、再び5%に近づいています。
9月11日には一時4.99%まで上昇しました。一方でS&P500は7,656.98まで反発し、依然として高値圏にあります。つまり今の市場では、利回り約5%の米国債と、かなり高い価格がついた米国株を同時に選べる状態になっています。(Reuters)
これは長期投資家にとって、かなり重要な変化だと思います。
問題は「来週FRBが利上げするか」ではありません。
もっと長い目で見ると、
これだけ国債の利回りが高くなった今でも、米国株を多く持つだけの見返りがあるのか
を改めて考える必要があります。
この記事のポイント
米10年国債利回りは5%目前まで上昇
10年TIPSの実質利回りも2.60%まで上昇
一方、S&P500のCAPEは約41で歴史的にもかなり高い
米国株がすぐ下落するとは限らないが、開始時点の価格は長期リターンには不利
国債の魅力が上がったことで、米国株だけを持つ「機会費用」が以前より大きくなった
米国債の条件はかなり良くなった
債券投資では、購入時の利回りは重要です。
10年国債を途中で売れば価格は上下しますが、信用リスクを別にすれば、開始時点の利回りは長期で得られるリターンを考えるかなり重要な出発点になります。
現在、その10年国債利回りが5%近くあります。
さらに注目したいのがTIPSです。
米財務省が9月11日に公表した10年TIPSの実質利回りは**2.60%**でした。5年でも2.38%、30年では3.07%です。(U.S. Department of the Treasury)
TIPSは元本が米CPIに連動するため、名目国債とは違い、インフレを差し引いた実質利回りを見ることができます。
10年間の実質利回りが2.6%あるということは、少なくとも数年前のように、
「債券ではほとんど実質リターンを得られないので、株式を買うしかない」
という環境ではありません。
投資家には今、かなり現実的な別の選択肢があります。
その一方で、米国株はまだ安くない
S&P500のShiller CAPEは9月9日時点で40.98倍でした。
長期平均は17.42倍、中央値は16.13倍です。過去最高は1999年12月の44.19倍なので、現在の水準は歴史的に見てもかなり高い位置にあります。(Multpl)
もちろん、
CAPEが高いから来週株価が下がる
という意味ではありません。
バリュエーションは短期のタイミング指標としてはあまり使いやすくありません。
しかし10年程度の長い期間を考える場合、開始時点で非常に高い価格を払うことは無視できません。
株式から得られるリターンは、大まかに考えれば、
企業利益の成長
+ 配当・自社株買い
+ バリュエーションの変化
から生まれます。
利益が伸びても、現在40倍を超えているCAPEが将来さらに上昇し続けるとは限りません。
バリュエーションが低下すれば、企業が成長していても株主のリターンの一部を打ち消します。
株の益利回りより国債利回りの方が高くなっている
もう一つ面白い数字があります。
S&P500の過去12か月利益から計算した益利回りは、9月10日時点で**3.86%**でした。(Multpl)
一方、10年国債利回りはほぼ5%です。
数字だけ並べると、
株式:約3.9%
国債:約5%
になります。
ただし、この二つをそのまま比較するのは正しくありません。
国債の利払いは基本的に固定ですが、企業利益は成長する可能性があります。株主には配当だけでなく自社株買いもあります。
だから、
「国債5% > 株式益利回り3.9%なので株は買う意味がない」
とは言えません。
重要なのは、株式が追加のリスクを取るだけの成長とリターンを提供できるかです。
株式のリスクプレミアムはまだ消えていない
ここでもう一つ確認しておきたいのがEquity Risk Premium、株式リスクプレミアムです。
Aswath Damodaran教授の9月1日時点の推計では、米国株のimplied ERPは約**4.14%**でした。このとき使われた米国債のリスクフリーレートは4.75%です。(Stern School of Business)
つまり、市場全体としては、
「国債より少し高ければ株でよい」
という価格付けになっているわけではありません。
株式には依然として、将来キャッシュフローの成長を含めたリスクプレミアムがあります。
これは「米国株は今すぐ売るべきだ」という単純な結論への重要な反対材料です。
米国株には利益成長という強い材料もある
実際、企業利益はかなり強いです。
2026年第2四半期には、決算を発表したS&P500企業492社のうち86%が市場予想を上回りました。
Barclaysは強い利益成長を理由に、2026年のS&P500一株利益予想を337ドルから365ドルへ引き上げています。(Reuters)
これが現在の高い株価を支えている重要な理由です。
金利だけを見て、
「5%になったから株は暴落する」
と考えるのも危険だと思います。
利益が予想以上に成長すれば、高い金利の一部を吸収できます。
それでも投資環境は明らかに変わった
それでも私は、5%近い国債利回りは無視できないと思います。
数年前までの投資家には、
高い株を買う
それとも、ほとんど利回りのない債券を買う
という選択しかない時期がありました。
現在は違います。
高い株を買う
それとも、約5%の名目利回りを持つ国債を買う
それとも、約2.6%の実質利回りを持つTIPSを買う
という選択になっています。
これは非常に大きな違いです。
株価が一切下落しなくても、債券の期待リターンが上昇するだけで、株式の相対的な魅力は低下します。
この変化はすでに資金フローにも少し表れています。
9月9日までの1週間で米国株ファンドからは約322億ドルが流出し、米国債などを含む債券ファンドには約66億ドルが流入しました。米大型株ファンドからの流出は過去最大の約404億ドルでした。(Reuters)
もちろん1週間の資金移動だけで長期トレンドとは言えません。
ただ、国債が再び「投資対象として競争力を持った」ことは確かだと思います。
だから米国株を全部売る、ではない
ここで結論を間違えないようにしたいです。
米国株のバリュエーションが高く、国債利回りが5%だからといって、米国株を全部売って国債に変える必要があるとは思いません。
株式には企業利益の長期成長があります。
また、国債利回りが5%あるからといって、それがインフレ後でも5%残るわけではありません。
何より、株式市場は高いバリュエーションのまま数年間上昇することがあります。
したがって今回の数字は、短期売買のシグナルというより、
資産配分を考え直す材料
として見る方がよいと思います。
今は「株を売るか」より「株だけでよいか」を考える局面
私が現在もっとも重要だと思うのはここです。
これまで米国株だけを保有していて問題がなかった投資家でも、国債やTIPSの期待リターンがここまで上昇した以上、
それでも100%近く株式を持つだけの理由があるのか
は考え直してよいと思います。
特に、
S&P500のCAPEは約41
10年国債は約5%
10年TIPSの実質利回りは2.6%
という組み合わせは、数年前とはかなり違います。
これは株式の弱気相場を予言する話ではありません。
むしろ、
安全資産の期待リターンが上がったため、株式だけを持つ機会費用が大きくなった
という話です。
今後見るべきもの
ここから最も確認したいのは、10年国債利回りが5%を超えるかどうかだけではありません。
重要なのは、
5%前後の金利が定着するのか
です。
一時的な原油高やFedの利上げ観測だけで金利が上昇しているなら、情勢が落ち着けば再び低下する可能性があります。
一方、
財政赤字、国債供給、根強いインフレ、実質金利の高さなどによって5%前後が長く続くなら、米国株に要求されるリターンも高い状態が続きます。
そのときは、現在の高いバリュエーションを維持するために、かなり強い利益成長が必要になります。
最後に
10年国債利回り5%は、単なるキリの良い数字ではないと思います。
重要なのは、その水準まで上昇したことで、
米国株に代わる長期投資先が再び現実的になったこと
です。
S&P500は依然として強く、企業利益も伸びています。
したがって、今すぐ株式から逃げる必要があるとは思いません。
しかし、CAPEが約41倍の米国株と、約5%の米国債、実質2.6%のTIPSを並べれば、以前よりも資産配分を考える意味は明らかに大きくなっています。
今の局面で考えたいのは、
「米国株は下がるか」ではなく、「この価格の米国株だけを持ち続けることが、今でも最良の選択なのか」
だと思います。