9月17日、イングランド銀行(BOE)は政策金利を3.75%に据え置きました。6対3の多数決で、3人は4.0%への利上げを主張しています。英国の8月CPIは3.1%で、2%目標を上回っています。 (Bank of England)
ただ、長期投資家として今回もっと気になったのは政策金利ではありません。
BOEが、QEで保有してきた国債をどう市場から減らすかという設計を大きく変えたことです。
金利を見るときは、中央銀行が政策金利を何%にするかだけでなく、長期債が市場にどれだけ供給されるかも重要です。今回の変更は、その違いをかなり分かりやすく示しています。
BOEは4882億ポンドの国債を3つに分けた
BOEのAsset Purchase Facilityには、購入時の金額ベースで4882億ポンドの英国債があります。新しい計画では、これを大きく3つに分けます。 (Bank of England Market Notice)
- 2217億ポンド:2034年までに満期を迎えるため、原則そのまま満期まで保有。
- 1465億ポンド:2035〜2049年満期。年間200億ポンドのペースで処分する。
- 1200億ポンド:最も長い年限の国債で、紙幣発行を間接的に裏付ける資産として保有し続ける。
つまり、保有国債を一律に市場へ売却するのではありません。特に長期債については、市場への直接売却を避ける方向へ大きく舵を切りました。
QTとは、単に『QEの逆』ではない
ここでQTを整理します。QE(量的緩和)は中央銀行が国債などを買い、市場から債券を吸収する政策です。一般に、中央銀行という大きな買い手が増えれば債券価格を支え、長期金利を押し下げる方向に働きます。
QT(量的引き締め)は、その保有資産を減らす過程です。しかし方法は一つではありません。満期まで持って償還を待つ方法もあれば、市場で積極的に売る方法もあります。
市場で売れば、民間投資家が吸収しなければならない国債の量が増えます。同じ条件なら、投資家はより高い利回りでなければ追加の国債を買いたくないかもしれません。債券価格と利回りは逆方向に動くので、価格が下がれば利回りは上がります。
だから政策金利を動かさなくても、中央銀行の国債売却は長期金利へ影響し得るわけです。
昨年は年間700億ポンド、これからは平均460億ポンド
2025年9月、BOEは1年間で保有国債を700億ポンド減らす計画を決めていました。今回は、2034年末までに金融政策目的の保有分をゼロにする一方、平均削減ペースを年間460億ポンドとしました。そのうち市場売却は年間200億ポンドです。 (Bank of England 2025) (Bank of England 2026)
Reutersによると、BOEは長期債の市場売却を6か月停止し、今回の変更後に長期英国債利回りは低下しました。 (Reuters)
ただし、ここから「QTを弱めたから長期金利は必ず下がる」とまでは言えません。長期金利は、将来の政策金利予想、インフレ期待、財政赤字、国債発行量、投資家が長期債を持つために求める上乗せ利回りなど、多くの要因で決まるからです。
重要なのは『金利』ではなく『債券の需給』も見ること
今回のニュースから長期投資家が学べることは、中央銀行の政策を政策金利だけで読まないことだと思います。
例えば、政策金利が据え置かれていても、政府が大量に国債を発行し、同時に中央銀行も保有国債を市場へ売れば、民間投資家が吸収すべき債券供給は増えます。需要が同じなら、より高い利回りが必要になる可能性があります。
逆に、今回のBOEのように中央銀行からの長期債供給を減らせば、その部分だけを見れば長期金利への上昇圧力は弱まります。
この違いは株式にもつながります。長期金利が上がれば、債券という比較的安全な資産から得られる利回りが高くなります。その結果、株式を持つ投資家が要求する収益率も上がりやすくなり、同じ企業利益に対して許容されるPERは低下しやすくなります。
ただし、BOEの売却方針だけで英国株の方向を決めることはできません。企業利益や景気、インフレ、為替も同時に見る必要があります。
もう一つ面白いのは、中央銀行と政府の境界です
BOEは2035〜2049年満期の1465億ポンドについて、市場で通常のオークションを続けるだけでなく、政府側へ市場価格で売却する方式も検討しています。実施する場合でも年間200億ポンドというMPCの削減ペース自体は維持するとしています。 (Bank of England)
これは国債が消えるという意味ではありません。中央銀行のバランスシートから外れても、最終的には政府の資金調達や市場の国債需給との関係が残ります。
したがって、今回の変更を単純な「金融緩和」と呼ぶのも適切ではないでしょう。政策金利は3.75%で、MPCの3人はむしろ利上げを求めています。インフレへの警戒を維持しながら、長期債市場への供給ショックを小さくするようQTの実施方法を調整した、と見る方が実態に近そうです。
長期投資家として今後見るもの
私は今回の決定だけを理由に英国債や英国株を買うべきだとは考えません。むしろ、次のデータを追う価値があります。
- 長期英国債利回りが、売却停止後も低下するのか。
- 英国CPIが3.1%からさらに上昇し、BOEが政策金利を引き上げるのか。
- 政府の国債発行量を含めた民間が吸収する国債の純供給がどう変わるのか。
- 長期金利の変化が英国株のバリュエーションや住宅・企業の借入コストへどう波及するのか。
政策金利は目立つ数字です。しかし長期投資では、それだけを見ていると重要な部分を落とします。
中央銀行が何%に金利を設定するかと、長期債を市場に何ポンド供給するかは別の政策経路です。
今回BOEが長期債の売却方法を変えたことは、債券市場では「価格」だけでなく「量」も重要だという、かなり良い実例だと思います。