米10年国債利回りが5%目前まで上昇しています。
一方、S&P500のCAPEは約41倍。10年TIPSの実質利回りは約2.5%です。

つまり今、投資家は「かなり高い米国株」と「約5%の米国債」を比較できる状況になっています。

結論から言えば、私はこれだけで米国株を全部売るべきだとは思いません。
ただし、「長期投資なら株を持っておけばいい」と考えやすかった低金利時代とは、かなり状況が変わりました。

9月11日の米10年国債利回りは一時4.957%まで上昇しました。原油高によるインフレ懸念やFRBの利上げ観測に加え、米政府の巨額の国債発行に対する警戒も金利を押し上げています。(Reuters)

5%という数字は、株式投資家にとってかなり重要です。

なぜなら今は、

ほぼ5%の利回りを得られる米国債

と、

かなり高い価格まで買われている米国株

を比較できるからです。

では、株から国債へ乗り換えた方がよいのでしょうか。

結論から言えば、そこまで単純ではありません。

しかし、数年前と比べて債券の競争力がかなり高くなっていることは確かだと思います。



まず「5%の国債」が何を意味するのか

債券では、買ったときの利回りがその後の長期リターンを考えるうえで非常に重要です。

たとえば10年国債を利回り約5%で購入し、満期まで保有するとします。

途中で市場価格は上下しますが、米国政府が予定どおり元本と利息を支払うという前提なら、購入時の約5%という利回りが、その後得られる収益の大きな基準になります。

もちろん、

「5%の利回りだから毎年必ず投資資産が5%増える」

という意味ではありません。

途中で売却すれば国債価格の変動を受けますし、受け取った利息を何%で再投資できるかによっても実際のリターンは変わります。

それでも株式と比べると、購入時点で将来の収益をかなり見通しやすい資産です。



しかも「実質金利」もかなり高い

さらに重要なのが実質金利です。

実質金利とは、

物価上昇を差し引いた後に、どの程度購買力が増えるか

を見る金利です。

たとえば5%の利息を得ても物価が毎年4%上昇すれば、実質的な増加はかなり小さくなります。

この実質金利を市場から直接確認する方法の一つがTIPSです。

TIPSは米国の物価上昇に合わせて元本が調整される国債で、その利回りはおおむね「インフレを差し引いた利回り」として見ることができます。

9月9日時点の米10年TIPS実質利回りは**2.46%**でした。(FRED)

これはかなり意味のある数字です。

簡単に言えば、

インフレ分を補正したうえでも、米国政府の債券から年2%台半ば程度の実質利回りを得られる水準

だからです。

低金利時代には、この数字がゼロ付近やマイナスになることもありました。

今は状況がかなり違います。



一方、米国株はかなり高い価格にある

では株式を見てみます。

現在のS&P500のShiller CAPEは、9月9日時点で40.98倍です。(Multpl)

CAPEとは、企業利益を10年間でならして株価と比較する指標です。

通常のPERでは直近1年の利益を使いますが、企業利益は景気によって大きく上下します。

そこで10年間の利益を使って、

一時的に企業利益が高い・低い影響を小さくして、株価が長期的に見て高いのか安いのか

を見ようとするのがCAPEです。

CAPEが約41倍ということは、歴史的に見てもかなり高い水準です。

ただし、ここで重要な注意があります。

CAPEが高いから、明日から株が下がるという意味ではありません。

高いバリュエーションは、短期の株価を当てる道具としてはあまり適していません。

むしろ、

高い値段から株を買うほど、その後10年程度の長期リターンには下押し圧力がかかりやすい

と考えるための指標です。



「CAPE 41倍」と「国債5%」をそのまま比べてはいけない

ここで、

「CAPEが41倍なら、逆数を取れば利益利回りは約2.4%。国債は5%だから、国債の方が得では?」

と思うかもしれません。

実際、

1 ÷ 40.98 ≒ 2.44%

です。

しかし、この2.44%と国債の5%を単純比較して、

「国債の勝ち」

とは言えません。

理由は、株式の利益には将来成長する可能性があるからです。

国債の利息は基本的に決められています。

一方、企業が利益を増やせば、株主が受け取る利益・配当・自社株買いなども長期的には増える可能性があります。

したがって株式では、

現在得られる利益
+ 将来の企業利益の成長
+ 配当や自社株買い
+ 将来のPERなどの変化

がリターンを決めます。

そのため、CAPEの逆数と国債利回りだけを直接比較するのは不十分です。



では、株を持つ見返りはどのくらいあるのか

ここで役立つ考え方が株式リスクプレミアムです。

名前は難しいですが、意味は単純です。

米国債を持てば比較的安定した利回りが得られるのに、それでも値動きの大きい株式を買うなら、

「国債より何%多く儲かりそうなら、そのリスクを取る価値があるか」

という追加の見返りが必要です。

これが株式リスクプレミアムです。

Damodaran教授の推計では、9月1日時点のS&P500のインプライド・エクイティ・リスク・プレミアムは**4.14%**でした。

その計算時に使われていた米国債金利は4.75%です。(Stern School of Business)

大まかに考えると、

国債:約4.75%
+ 株を持つ追加の見返り:約4.14%
= 株式に投資する人が要求する収益率:約8.9%

という関係です。

もちろん、これは将来8.9%儲かることを保証する数字ではありません。

現在の株価、企業の将来キャッシュフロー、国債金利などから逆算すると、

市場はその程度の収益率を要求している

という推計です。



ここで今日の金利上昇が効いてくる

9月1日には、この計算に使われた国債金利は4.75%でした。

ところが今日、10年国債利回りは5%近くまで上がっています。

ここで重要なのは、

安全性の高い国債から得られる利回りが上昇すれば、投資家が株式に要求する収益率も通常は高くなる

ということです。

たとえば、

「国債から3%しかもらえないなら、株式の期待収益率が7%でも魅力的」

だった投資家でも、

「国債から5%もらえるなら、株式で7%を狙うために大きな値下がりリスクを取る必要があるだろうか」

と考えるようになります。

すると株式には、

もっと高い将来利益が必要になる

または、

株価が下がって、より安い価格から買えるようになる必要がある

という圧力がかかります。

これが、高金利が高PER株のバリュエーションを圧迫する理由です。



それでも株を全部売って国債に移すべきではない

ここが一番難しいところです。

CAPE約41倍は高い。

国債利回り約5%も魅力的。

実質金利も2.46%あります。

これだけを見ると、

「それなら米国株を売って国債を買えばよい」

と思えます。

しかし、そうとは限りません。

理由の一つは、株式市場が割高な状態のまま何年も上昇することがあるからです。

企業利益が予想以上に伸びれば、現在の高い株価を後から利益が追いかけて正当化する場合もあります。

そしてもう一つ重要なのが待つことの機会損失です。

機会損失とは、

「別の選択をしていたら得られたはずの利益を逃すこと」

です。

たとえば「CAPEが高いから株が安くなるまで待とう」と現金や国債へ移った後、株価がさらに30%上昇したとします。

その後10%下落しても、最初に売った価格よりまだ高いかもしれません。

つまり、

割高であること

と、

今すぐ売るべきこと

は別問題です。



私なら「株か債券か」の二択にはしない

現在の数字から読み取れるのは、

米国株が必ず暴落する

ということではありません。

より重要なのは、

以前より債券を保有する代償が大きく減った

ことだと思います。

低金利時代には、安全な国債を持ってもほとんど利息が得られませんでした。

そのため多少株価が高くても、

「長期的に資産を増やすなら株を持つしかない」

という状況に近い時期がありました。

しかし現在は、

* 10年国債:約5%
* 10年TIPS実質利回り:約2.5%
* S&P500 CAPE:約41倍

です。(Reuters)

つまり今は、

高い価格の米国株だけを持たなくても、債券からかなりの収益を得られる

環境になっています。

これはポートフォリオを考えるうえで大きな変化です。



今日の金利上昇で変わったのは「株が下がる確率」だけではない

ニュースでは、

「10年金利が5%に近づいたので株が下落した」

という短期的な説明が中心になります。

もちろん、それも重要です。

しかし長期投資の視点では、もう一つ重要な変化があります。

将来10年間の投資先として、債券のスタート地点そのものが良くなった

ことです。

債券では、購入時の利回りが高くなれば、その後の中長期リターンの土台も高くなります。

一方、株式では高いバリュエーションから始めるほど、その後の長期リターンには逆風になりやすくなります。

したがって、今の状況は単に、

「金利上昇だから株に悪い」

という話ではありません。

むしろ、

「株以外にも十分なリターンを期待できる選択肢が戻ってきた」

という変化だと思います。

現在の約5%の国債利回りがさらに上がるのか、それともインフレが落ち着いて再び下がるのかは分かりません。

株式についても、高いCAPEがいつ修正されるかは分かりません。

だからこそ今見るべきなのは短期的な株価の上下だけではなく、

今の価格から10年間保有するとしたら、株・債券それぞれからどの程度のリターンを期待でき、そのためにどの程度のリスクを取る必要があるのか

という比較ではないかと思います。