「1000万円のまとまった資金ができた。今日、全部を投資するのは怖い。3か月くらいに分けた方が安全ではないか」。
これは、インデックス投資をしている人なら一度は考えやすい疑問です。Vanguardは、この問いをかなり具体的に検証しています。
Vanguardの1976〜2022年のデータでは、一括投資は3か月の分割投資を68%の期間で上回りました。理由は、分割している間に一部の資金が現金のままとなり、市場のリターンを受け取れない期間が生まれるためです。
ただし、最悪の市場環境では分割投資の方が損失を抑えたケースもあります。したがって「一括投資が常に正解」という話ではありません。
まず確認したいのは「毎月の積立投資」とは別の話だということ
今回の研究が比較しているのは、毎月の給料から一定額を投資する一般的な積立投資ではありません。
すでに投資できるまとまった資金を持っている人が、その資金を今日まとめて投資するのか、それとも少しずつ市場へ入れるのか、という比較です。
たとえば1000万円を3回に分けるなら、考え方は次のようになります。
1000万円を一括で入れる場合と、3か月に分ける場合
VanguardのFigure 1をもとにした説明用の単純化。金額は1000万円の例。
| 時点 | 一括投資 | 3か月分割 |
|---|---|---|
| 開始時 | 1000万円を投資 | 約333万円を投資 |
| 1か月後 | 1000万円が市場に参加 | 累計約667万円 |
| 2か月後 | 1000万円が市場に参加 | 累計1000万円 |
違いは、最初の2か月です。一括投資では最初から1000万円すべてが市場に参加しています。一方、分割投資では666万円前後、333万円前後がまだ現金として待機しています。
この「市場に参加していない時間」が、Vanguardが重視するポイントです。
1976〜2022年では、一括投資が68%の期間で上回った
VanguardはMSCI World Indexの1976〜2022年のリターンを使い、100%株式に投資するケースを比較しました。
分割投資は、資金を3等分し、1か月ずつ間隔を空けて3回投資します。そして投資開始から1年後の資産額を比べています。
Vanguardの歴史データで、どちらが上回ったか
MSCI World Index、1976〜2022年。1年後の資産額をローリングで比較。
| 比較 | 上回った割合 |
|---|---|
| 一括投資 > 3か月分割 | 68% |
| 3か月分割 > 現金のまま | 69% |
| 一括投資 > 現金のまま | 70% |
つまり、歴史上はおよそ3回に2回、一括投資の方が有利だったことになります。
ただし、この68%は「今から一括投資すれば68%の確率で必ず勝つ」という未来予測ではありません。1976〜2022年の過去の市場で、同じ方法を繰り返し比較した結果です。
なぜ一括投資が勝ちやすいのか
理由は複雑ではありません。株式を保有するのは、現金より高いリターンを長期的に期待しているからです。
ところが分割投資をすると、まだ投資していない資金は現金として残ります。相場が上昇した場合、その現金部分は上昇の恩恵を受けられません。これが機会費用です。機会費用とは、「別の選択をしたことで受け取れなかった利益」のことです。
Vanguardのデータでは1976〜2022年に、米国株は3か月米国債を76%の期間で、債券も68%の期間で上回りました。市場に早く参加するほど、この株式・債券のリスクプレミアムを受け取る時間が長くなります。
「待機資金にも金利が付くなら結果は変わるのでは」という疑問もあります。Vanguardは未投資資金に3か月米国債相当の金利を付けた条件も試しており、その場合でも100%株式では一括投資が3か月分割を65%の期間で上回りました。優位性は少し縮みますが、結論の方向は変わっていません。
それでも「一括投資が常に勝つ」わけではない
ここが最も重要です。平均的・中央値的には一括投資が有利でも、投資直後に大きく下落する局面では分割投資が有利になります。
Vanguardは10万ドルを投資した場合の1年後の資産額を、過去の市場環境ごとに並べています。100%株式では、中央値では一括投資が上回る一方、悪い方から5%に入る市場環境では分割投資の方が資産額を多く残しました。
100%株式・10万ドルを投資した場合の1年後
1976〜2022年のMSCI World。5%点は悪い方の極端な市場環境、50%点は中央値、95%点は良い方の極端な市場環境。
| 市場環境 | 一括投資 | 3か月分割 |
|---|---|---|
| 5%点 | $82,947 | $85,906 |
| 中央値 | $111,940 | $109,580 |
| 95%点 | $139,453 | $131,012 |
中央値では、一括投資が$111,940、3か月分割が$109,580でした。差は$2,360です。一方、悪い方から5%の局面では、一括投資が$82,947、分割投資が$85,906で、分割投資の方が約$2,959多く残っています。
つまり分割投資は、期待リターンを高める方法というより、投資直後の大幅下落にさらされる金額を一時的に減らす方法と考える方が正確です。
分割投資の意味は「後悔して投資をやめるリスク」を減らすこと
投資家は必ずしも「1年後の平均資産額を最大にすること」だけを目的にしているわけではありません。
1000万円を一括投資した直後に20%下落すれば、評価額は単純計算で約800万円になります。そのとき不安に耐えられず売却してしまうなら、期待値だけで一括投資を選んでも、実際の投資行動ではうまくいかない可能性があります。
Vanguardも、損失への抵抗感が非常に強い投資家では、分割投資が合理的になり得るとしています。分割することで、最悪の局面で受ける損失を一時的に小さくし、「投資したことを後悔して計画そのものを中断する」リスクを下げられるからです。
ただし、分割期間を長くすればするほど、現金で待つ期間も長くなります。Vanguardは、分割を選ぶ場合でも、機会費用を抑えるため比較的短い期間、たとえば3か月程度にする考え方を示しています。
では、1000万円あったらどう考えればいいのか
この研究から直接「全員が一括投資をすべき」と結論づけることはできません。研究が示しているのは、まず期待値の方向です。
- すでに投資する資金があり、長期で保有する前提があり、大きな下落にも計画を変えず耐えられるなら、過去のデータでは早く市場に参加する一括投資の方が有利なケースが多かった。
- 一括投資すると不安が強すぎて、現金のまま何年も待ってしまう、あるいは下落時に売却してしまいそうなら、短期間の分割投資には行動面の意味がある。
この2つは矛盾していません。一括投資は期待リターンを取りにいく選択、分割投資は一時的にリスクを下げて計画を続けやすくする選択と整理すると分かりやすくなります。
実は最も避けたいのは「決められずに現金のまま放置すること」
Vanguardの研究で興味深いのは、一括投資と分割投資の差より、どちらも「ずっと現金のまま」より良い結果になりやすかった点です。
歴史データでは、3か月分割でも現金保有を69%の期間で上回りました。一括か分割かで迷い続け、投資するはずだった資金を長期間現金のままにすると、そもそも市場のリターンを受け取る機会を失います。
「一括か積立か」を完璧に決めることより、自分が守れる投資計画を作り、その計画どおり市場に参加することの方が重要だというのが、この研究から読み取れる実務的なポイントです。
1976〜2022年のVanguardの研究では、3か月分割に対して一括投資が68%の期間で上回りました。期待値を重視すれば、一括投資には合理性があります。
しかし、悪い市場環境では分割投資が損失を抑えることもあります。大きな下落で投資計画をやめてしまう可能性が高い人にとっては、短期間に分けることにも意味があります。
「どちらが絶対に正しいか」ではなく、「期待値」と「自分が続けられる方法」を分けて考える。 これが一括投資と積立投資を考えるときの一番重要な整理です。
※本記事はVanguardの研究を紹介するもので、特定の金融商品の購入や一括投資を推奨するものではありません。研究結果は過去の市場データと特定の前提に基づき、将来の成果を保証しません。税金、為替、売買コスト、個人の資産状況・投資期間などは別途考慮が必要です。