9月18日、日銀は政策金利を1.0%から1.25%へ引き上げました。31年ぶりの高水準です。政策金利とは、中央銀行が景気や物価に影響を与えるために誘導する短期金利の基準です。

普通に考えると、金利が上がれば円は買われそうです。ところが実際には逆でした。発表後、円は一時1ドル=157.145円まで下落し、9月3日以来の円安水準をつけました。 (Reuters)

なぜ「利上げしたのに円安」という、一見すると矛盾した動きが起きたのでしょうか。

結論から言うと、為替市場が見ていたのは今日の1.25%そのものではなく、「この先、日銀がどのくらい速く利上げするのか」だったからです。

この記事のポイント

  • 今回の1.25%への利上げは、市場がほぼ予想していた。
  • そのため「利上げした」という事実だけでは、新しく円を買う材料になりにくかった。
  • 一方、採決は7対2で、2人は利上げに反対した。市場はこれを「次の利上げを急がない可能性」と受け止めた。
  • 実際、政策見通しに敏感な日本の2年国債利回りは、発表後に4bp(0.04%ポイント)低下した。
  • 米国の政策金利は3.75〜4.00%と日本より高く、米国でも追加利上げ観測が残っている。

まず、利上げすると普通はなぜ円高になりやすいのか

金利が高くなると、その通貨で持つ預金や債券などの利回りも上がりやすくなります。

たとえば、日本の金利が低く、米国の金利が高いとします。この場合、同じお金を置くなら、より高い利回りを得られるドル資産を持ちたいと考える投資家が増えやすくなります。反対に、日本の金利が上がれば、円を持つ魅力は以前より高まります。

そのため、ほかの条件が同じなら日銀の利上げは円高方向の材料です。

ただし、為替市場には重要な特徴があります。市場は、発表を見てから初めて動くわけではありません。多くの投資家は「日銀は次にどうするか」を先回りして売買しています。

最大の理由は、今回の利上げが「織り込み済み」だったこと

今回の利上げは、発表前から市場でほぼ予想されていました。Reutersによると、9月の利上げは発表前に市場でほぼ完全に織り込まれていました。 (Reuters)

「織り込み済み」とは、市場参加者がある出来事をあらかじめ予想し、その予想をすでに価格に反映させている状態です。

たとえば、「明日ほぼ確実に日銀が利上げする」と多くの人が考えているなら、円を買いたい人は発表前から買います。実際、円は今月、一時1ドル=152.89円まで上昇していました。背景の一つには、日銀が今までより速いペースで利上げするという期待がありました。 (Reuters)

つまり9月18日の発表で「1.25%にします」と言われても、それ自体は大きな驚きではありませんでした。

為替を動かしたのは、予想通りだった部分ではなく、予想と違った部分です。

予想と違ったのは「次の利上げが思ったほど早くないかもしれない」こと

今回の利上げは7対2で決まりました。2人の審議委員は、金利を据え置くべきだとして利上げに反対しました。Reutersは、この2票の反対が一部の市場参加者にとって小さな驚きになり、追加利上げへの期待をやや弱めたと報じています。 (Reuters)

ここが今回の円安を理解する一番重要なところです。

市場は発表前、「1.25%への利上げ」だけでなく、その先も比較的速いペースで利上げが続く可能性を考えていました。

ところが発表を見ると、利上げに反対する委員が2人いました。さらに、日銀から「次も早く利上げする」と強く受け取れる新しいメッセージは出ませんでした。

その結果、市場では「今日の利上げは予定通り。でも、その次は思っていたほど急がないかもしれない」という見方が強まりました。

その反応は債券市場にも表れています。日銀の政策見通しに比較的敏感な日本の2年国債利回りは、発表後に4bp低下して1.82%となりました。bp(ベーシスポイント)は金利の細かい変化を表す単位で、100bpが1%ポイントです。つまり4bpは0.04%ポイントです。 (Reuters)

日銀が実際に利上げした日に、短めの国債金利が下がった。これは、市場が将来の日銀の金利経路を少し下方向へ修正したことと整合的です。

為替では、日本の金利だけでなく「日米の差」が重要

もう一つ重要なのが米国です。

日銀が1.25%へ利上げしても、米国の政策金利は現在3.75〜4.00%です。単純比較でも、まだ米国の方がかなり高い状態です。 (Reuters)

しかも米国では、FRBが9月16日に利上げしたばかりです。将来の短期金利を取引する金利先物を見ると、9月18日時点では、次回会合でさらに0.25%利上げする可能性が市場価格から約53%と推計されていました。1週間前は27.2%だったため、米国側でも「金利がもう一段上がるかもしれない」という見方が強まっています。 (Reuters)

ここでいう53%は未来を正確に当てる確率ではありません。先物価格には投資家の予想だけでなく、リスクへの上乗せなども含まれるため、「市場がどの程度そのシナリオを意識しているかを見る目安」です。

為替市場から見ると、日銀が1回利上げしただけでは十分ではありません。重要なのは、これから日本の金利がどこまで上がるのか、同時に米国の金利がどうなるのかです。

日本の利上げペースへの期待が下がり、米国では追加利上げ観測が残るなら、日米金利差が急速に縮むという期待も弱くなります。これが円を買う勢いを弱める一因になります。

「利上げ=円高」ではなく、「予想よりタカ派か」が大事

市場の記事ではよく「タカ派」という言葉が出てきます。これは、インフレを抑えるために金利を高くしたり、利上げを続けたりすることに積極的な姿勢を指します。反対に、金利上昇に慎重な姿勢は「ハト派」と呼ばれます。

今回の日銀は、実際には利上げしました。それだけを見れば引き締め方向です。

しかし市場は、事前にかなり速い利上げまで期待していました。その高い期待と比べると、7対2の採決や今後の明確な加速シグナルの不足は、「思っていたほどタカ派ではない」と受け止められました。

このため、

利上げした → 円高

ではなく、実際には、

事前にかなりの利上げを予想 → 発表内容はその期待を上回らなかった → 次の利上げ期待が少し後退 → 円安

という順番で考える方が、今回の値動きを説明しやすくなります。

では、ここから円安が続くのか

そこはまだ決めつけられません。

今回の日銀声明には、円高につながり得る材料もあります。日銀は基調的な物価上昇率が2%に近づいているとの認識を示し、企業間取引の価格上昇が消費者物価にも波及し始めていると指摘しました。Reuters調査では、エコノミストは日銀が2027年3月末までに1.5%、2027年第2四半期に1.75%まで利上げすると予想しています。 (Reuters)

つまり、今回の円安は「日銀がもう利上げできない」と市場が判断したという意味ではありません。

現時点で比較的確度が高いのは、今回の1.25%への利上げが予想済みで、発表直後に追加利上げ期待が少し弱まったことが円安と整合的だったというところまでです。

一方、この先の円相場はまだ不確実です。植田総裁が今後の利上げに積極的な姿勢を示したり、日本の賃金・物価が予想以上に強かったりすれば、市場は再び日銀の利上げペースを速く見積もる可能性があります。反対に、日銀が慎重な姿勢を続け、米国の追加利上げ観測が強まれば、円には逆風が残ります。

次に見るべきものは3つ

  • 植田総裁の説明:9月18日15時30分開始予定の記者会見の内容は、本稿作成時点では反映していません。市場が知りたいのは、1.25%にした理由だけでなく「次はいつ、どんな条件なら上げるのか」です。 (日本銀行)
  • 日本の物価と賃金:8月のコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)は前年同月比1.7%で、市場予想の1.8%をやや下回りました。エネルギー要因だけでなく、賃金上昇を伴う基調的な物価上昇が続くかが重要です。 (Reuters)
  • 米国の金利見通し:FRBの追加利上げ期待が強まるのか弱まるのか。ドル円は日銀だけを見て決まるわけではありません。

結論

日銀が利上げしたのに円安になったことは、実はそれほど矛盾していません。

市場は「今の金利」だけでなく、これからの金利を先回りして取引しているからです。

今回の1.25%への利上げは、発表前からほぼ予想されていました。ところが発表後、2人の反対票と明確な追加利上げ加速シグナルの不足によって、市場の「次の利上げ」への期待が少し弱まりました。

そして米国の金利は依然として日本より高く、米国でも追加利上げ観測が残っています。

だから今回のポイントは、「日銀が利上げしたか」ではなく、「市場が想像していたより速く利上げしそうか」です。

為替を見るときは、ニュースの見出しだけでなく、発表前に市場が何を予想していたのか、その予想が発表後にどう変わったのかを見る。この視点を持つと、「利上げなのに円安」のような一見不思議な値動きもかなり理解しやすくなります。