3日前の記事で、私は「9月に0.25%利上げするか」よりも、その先を見た方がいいと書きました。もしFOMCの経済見通し(SEP)で2026年末や2027年末の政策金利見通しまで上方修正されるなら、単発の利上げではなく、金融政策のシナリオそのものが変わったと考えるべきだ、と。
前回の記事はこちらです。
9月16日のFOMCで、その条件がかなりはっきり成立しました。

利上げそのものは、今回いちばん重要なニュースではない

FRBは9月16日、政策金利を0.25%引き上げ、誘導目標を3.75〜4.00%にしました。投票は12対0の全会一致です。FRBは声明で、経済活動は「堅調なペース」で拡大し、国内支出は底堅く、雇用増加も労働力の伸びに見合っている一方、インフレは依然高いと説明しています。 (Federal Reserve)

ただし、0.25%の利上げ自体は市場にとって大きなサプライズではありませんでした。Reutersによれば、会合前の金利市場では0.25%利上げが90%超の確率で織り込まれていました。つまり、今回の本当の新情報は「利上げしたこと」より、FRBがその先をどう考えているかです。 (Reuters)

本当に変わったのは、2027年の金利見通し

今回のSEPを6月時点と比べると、FRBの見方がどこで変わったのかが分かります。中央値で見ると、2026年の実質GDP成長率は2.2%→2.3%、2027年は2.3%→2.4%へ上方修正されました。失業率は2026年、2027年ともに4.3%→4.1%へ下方修正されています。

一方、物価見通しは少し上がりました。2026年のPCEインフレ率は3.6%→3.7%、コアPCEは3.3%→3.4%です。そして最も重要なのが政策金利です。2026年末の政策金利中央値は3.8%→4.1%、2027年末は3.6%→4.1%へ大きく引き上げられました。 (Federal Reserve SEP)

ここは因果関係を一段ずつ見る必要があります。FRBは、以前より成長が強く、失業率が低いと見ています。つまり、金利を高めに保っても景気がすぐ崩れるとは考えていません。同時に、インフレ見通しは少し悪化しました。するとFRBにとっては、「景気を守るために早く利下げする必要」は後退し、「物価を抑えるために高い金利を続ける余地」は大きくなります。これが2027年の政策金利見通しが上がった背景として最も自然な読み方です。

16人が、年内に少なくとももう1回の利上げを想定している

ドットチャートを見ると、18人の参加者のうち12人が2026年末の政策金利を4.125%、4人が4.375%と見ています。現在の誘導目標の中心は3.875%なので、16人が年内に少なくとももう1回、0.25%の利上げを想定していることになります。2人だけが現状維持です。 (Federal Reserve SEP)

ただし、ドットチャートは「FRBが必ずこうする」という約束ではありません。各参加者が現在の情報を前提に考える適切な政策金利の経路です。インフレや雇用が変われば、この見通しも変わります。重要なのは、現時点のFOMC参加者では「今回で終了」より、追加利上げを前提にする見方が圧倒的に多いということです。

強い小売売上高も、FRBに利上げする余裕を与えている

同じ9月16日に公表された8月の米小売売上高は、前月比1.2%増でした。市場予想の0.8%増を上回っています。さらに、GDPの個人消費推計に使われやすい「コントロールグループ」は1.4%増で、市場予想の0.4%増を大きく上回りました。ガソリン価格上昇も売上額を押し上げましたが、それだけでは説明できない消費の底堅さも確認できます。 (Reuters)

これはFOMCの見方と整合します。需要がまだ大きく崩れていないなら、FRBは景気後退を恐れてすぐ利下げする必要がありません。むしろ高い需要が続けば、企業が値上げを通しやすくなり、原油高などの供給ショックが物価全体へ広がるリスクが高まります。

ただし、小売売上高は名目値です。物価が上がれば、同じ量しか買っていなくても売上額は増えます。またReutersは、低所得層では実質賃金や生活必需品価格への圧力が強いことも指摘しています。したがって、この1回の強い小売統計だけで「家計は何の問題もない」と結論づけるのも早いです。

それでも「長い利上げサイクル」が確定したわけではない

ここが今回の記事で最も重要な反対材料です。Cleveland Fedの9月15日時点のインフレNowcastでは、9月CPIは前月比0.37%と高めですが、コアCPIは0.20%です。コアPCEは0.28%とまだ高めで、7〜9月期の年率換算ではコアCPIが2.16%、コアPCEが3.00%と、指標によって温度差があります。これは公式統計ではなくモデル推計ですが、物価上昇がすべての基調指標で同じように加速しているわけではないことを示す反証材料になります。 (Federal Reserve Bank of Cleveland)

つまり、今のデータから言えるのは「追加利上げの可能性が大きく高まった」までです。そこからさらに2回、3回と利上げが続くためには、エネルギー価格だけでなく、コア物価、サービス価格、賃金、期待インフレなどにも持続的な上昇が広がる必要があります。

なぜ株は下がったのか

FOMC後、ReutersによればS&P500は約1%、Nasdaqは0.7%下落し、特に2年国債利回りが上昇しました。2年債は、長期国債よりも「これから数年の政策金利がどうなるか」という市場予想の影響を受けやすい金利です。今回のSEPで2027年までの政策金利見通しが上がったため、短期から中期の金利が高く続くという予想が強まりました。 (Reuters)

この金利上昇が株式に効く仕組みは単純な「利上げ=株安」ではありません。投資家が国債などでより高い利回りを得られるようになると、株式にもより高い期待収益率を求めます。同じ企業利益でも、将来利益に対して支払えるPERは低くなりやすくなります。特に、利益の多くを遠い将来に期待して高い評価を受けている成長株ほど影響を受けやすくなります。

一方で、FRBはGDP成長率を上方修正しています。景気が強ければ企業利益は支えられます。つまり今後の株式市場は、「高い金利によるPER低下圧力」と「強い景気による利益成長」の綱引きになります。利上げだけを見て一方向に決めるのは危険です。

私のシナリオはこう更新する

ここからはFOMCの公式予測ではなく、今回のデータを受けた私の整理です。今後6〜12か月について、現時点では次のように重みを置きます。

  • 50%:年内にもう1回0.25%利上げし、2027年は4%台前半を長く維持する。
  • 25%:インフレがサービスや賃金まで広がり、年内または2027年に追加で複数回の利上げが必要になる。
  • 20%:原油高の影響が薄れ、基調インフレが再び鈍化し、追加利上げが不要になるか2027年の利下げが復活する。
  • 5%:消費・雇用が急速に悪化し、FRBが想定より早く引き締めを撤回する。

この確率は市場価格から直接読み取ったものではなく、現在の情報を整理するためのシナリオ分けです。今回のFOMCで最も増えたのは、最初の「もう1回利上げして高金利を維持する」シナリオです。

次に見るべき3つ

まず9月17日の住宅着工件数です。住宅は金利の影響を受けやすいため、高金利が実体経済をどこまで冷やしているかを見る材料になります。米東部時間8時30分、日本時間では9月17日21時30分の公表予定です。 (U.S. Census Bureau)

次に9月30日の8月PCEです。PCEはFRBが2%目標の基準としている物価指数です。特にコアPCEと短期モメンタムが高止まりするなら、追加利上げの根拠は強くなります。逆に、コアの伸びが明確に鈍れば、原油中心の一時的な上振れという見方が再び強まります。 (Bureau of Economic Analysis)

そして次のFOMCは10月27〜28日、その次は12月8〜9日です。今回のドットは「年内にもう1回」を示していますが、10月なのか12月なのかは決まっていません。そこは今後の物価・雇用・消費次第です。 (Federal Reserve)

今回の結論

9月16日のFOMCで重要だったのは、0.25%の利上げではありません。

FRBが「景気は想定より強い」「失業率は想定より低い」「インフレは少し高い」と見直し、その結果として2027年までの政策金利経路を大幅に引き上げたことです。

3日前までは、「9月の利上げが1回で終わるのか」を確認する局面でした。今回、その「1回だけ」シナリオはかなり後退しました。

ただし、さらに長い利上げサイクルへ進むかはまだ別問題です。今後は、原油高がコア物価やサービス価格まで広がるのか。それとも基調インフレは落ち着き、FRBが今回示した高金利経路を再び下げるのか。

市場の焦点は、もう「利上げするか」ではありません。
「4%台の政策金利が、どれだけ長く続くのか」
に移ったと考えています。