中国のメモリ半導体メーカー、CXMT(長鑫存儲)が9月20日、第5世代のDRAM製造技術を量産段階に入れたと発表しました。
DRAMとは、スマートフォンやPC、サーバーが作業中のデータを一時的に置いておく「作業用メモリ」です。AIサーバーで注目されるHBMも、DRAMを高度に積み重ねた製品です。
今回のニュースで重要なのは、中国企業が新しいメモリを作れるようになった、というだけではありません。
いま高値が続くメモリ市場に、新しい供給能力が入り始めたことです。
投資家にとっての問いは、「CXMTがすぐSamsung、SK hynix、Micronを追い抜くか」ではありません。もっと現実的には、現在の高いメモリ価格と利益率が、これまで想定していたより早く下がる可能性が出てきたかです。
この記事のポイント
今回のニュースは、次の3点に分けるとわかりやすくなります。
1つ目。 CXMTは同じ1枚のシリコンウエハーから、従来より多くのメモリを作れるようになったとしています。
2つ目。 現在のDRAM市場は供給が需要に追いつかず、価格と大手メーカーの利益率が非常に高い状態です。
3つ目。 ただし、今回量産される中心製品はスマートフォンなど向けのLPDDR5Xで、AI向けHBMの供給不足がすぐ解消する話ではありません。
つまり、今日だけで「メモリ高騰は終わった」と考えるのは早い。一方で、供給不足が長く続くという前提には、新しい反対材料が加わったと考えるべきです。
CXMTは何を達成したのか
Reutersによると、CXMTの第5世代プラットフォームは、メモリを構成する細かな構造の間隔を11.95ナノメートルまで縮小しました。
さらにCXMTは、同じ条件なら1枚のウエハーから作れるチップの総数が前世代より少なくとも50%増えると説明しています。
ここでいうウエハーは、半導体をまとめて作る円盤状の材料です。同じ1枚から作れるチップ数が増えれば、うまく量産できた場合には1個あたりの製造コストを下げやすくなります。
CXMTはこの技術を使った24ギガビットのLPDDR5X製品も量産しています。LPDDRは消費電力を抑えたDRAMで、主にスマートフォンや携帯機器で使われます。
これは、CXMTが単に古い世代の安価なメモリを大量生産する会社から、より高性能な製品へ進んでいることを示します。
なぜ今、このニュースが重要なのか
理由は、現在のメモリ市場がかなり特殊な状態だからです。
TrendForceによると、2026年4〜6月期のDRAM業界売上高は前の四半期から59.5%増え、約1547億ドルに達しました。AIサーバー向けを中心に需要が増える一方、供給拡大が追いついていません。
同じ調査では、Samsungの世界シェアが39.4%、SK hynixが24.9%、Micronが23.3%でした。3社を合計すると87.6%です。
つまり現在のDRAM市場は、少数の大手企業に供給が集中しています。
供給が足りず、しかも供給会社が少ない。この組み合わせでは価格が上がりやすく、メーカーの利益率も高くなります。
実際、TrendForceは2026年7〜9月期も一般的なDRAMの契約価格が前期比13〜18%上がると予想しています。ただし上昇率は鈍化する見込みです。
Micronの数字を見ると「価格」の重要さがわかる
米国の大手メモリメーカーMicronの直近決算を見ると、現在の好況がどれほど価格に支えられているかがわかります。
Micronの2026年度第3四半期の売上高は414.6億ドル、全社の粗利益率は85%でした。
粗利益率とは、売上から製品を作る直接的な費用を引いたあと、どれくらい利益が残るかを見る数字です。85%という数字は、現在の需給が非常に強いことを示しています。
さらにMicronのSEC提出資料では、2026年度最初の9か月のDRAM売上は前年同期比211%増えました。その内訳を見ると、販売数量の増加は約30%でしたが、平均販売価格は約140%上昇しています。
ここが重要です。
利益が急増している理由は、売る量が増えたことだけではなく、1個あたりの価格が大きく上がったことにもあります。
したがって、新しい競合が供給を増やし、価格上昇が止まると、売上数量が増え続けても利益の伸びは大きく鈍る可能性があります。
企業価値で見るなら「需要」だけでは足りない
ここ数年のメモリ企業を考えるとき、物語の中心はAI需要でした。
AIサーバーが増える。必要なメモリ容量も増える。供給が足りない。価格が上がる。メーカーの利益が増える。
この流れは現在も強いです。
しかし、企業価値は需要だけで決まりません。需要がどれだけ増えても、供給がそれ以上に増えれば価格は下がります。
メモリ半導体は特に、この需給の変化が利益率へ大きく出やすい産業です。
だから今回のCXMTのニュースは、AI需要の強さを否定するニュースではありません。供給側にも変化が起き始めたというニュースです。
ただし、HBMとLPDDR5Xは同じではない
ここは今回もっとも注意したいところです。
AI向け半導体で不足が強く意識されているのは、GPUと一緒に使うHBM、つまり高帯域幅メモリです。大量のデータを非常に高速にやり取りするための特殊なDRAMで、製造や積層の難易度も高くなります。
一方、CXMTが今回前面に出している24Gb LPDDR5Xは、主にスマートフォンなどの低消費電力機器向けです。
そのため、今回の量産開始だけで「AI向けHBM不足が解消する」「MicronのAIメモリ利益がすぐ崩れる」と結論づけることはできません。
むしろ最初に競争が強くなりやすいのは、スマートフォンやPCなどに使う一般的なDRAMでしょう。
大手3社が収益性の高いHBMやサーバー向け製品へ生産を振り向ける一方、その空いた一般DRAM市場へ中国メーカーが入る。こうした役割分担が進む可能性があります。
これから考えられる3つの展開
1つ目は、影響が中国のスマートフォン市場中心にとどまる場合です。
CXMTの生産歩留まりや海外販売が限定的なら、世界のDRAM価格への影響は小さく、大手3社の高い利益率も当面維持される可能性があります。
2つ目は、一般DRAMで価格競争が広がる場合です。
CXMTが安定して量産し、中国以外にも供給を広げれば、LPDDRや通常のDDR製品では価格上昇が止まりやすくなります。大手はHBMやサーバー向けへの移行をさらに急ぐことになります。
3つ目は、中国勢が高性能メモリでも技術差を縮める場合です。
もし今後HBMを含む高付加価値製品まで競争力を持つようになれば、Samsung、SK hynix、Micronについて、将来の市場シェア、利益率、設備投資の前提そのものを見直す必要が出てきます。
現時点では3つ目まで進んだと判断できる材料はありません。ただし、今日の量産発表は、その可能性を以前より無視しにくくしたニュースです。
次に見るべき数字
今後もっとも重要なのは、CXMTが「何個作れると言っているか」ではなく、実際に良品をどれだけ安定して出荷できるかです。
半導体では、作ったチップのうち正常に使える割合を歩留まりと呼びます。1枚のウエハーから作れるチップ総数が50%増えても、歩留まりが低ければ実際の供給量はそれほど増えません。
そのため、今後はCXMTの実際の出荷量、採用するスマートフォンメーカー、海外販売の広がり、一般DRAMの契約価格を確認したいところです。
同時に、Samsung、SK hynix、Micronが設備投資をどこまで増やすか、HBMへどこまで生産能力を移すかも重要です。
今回の結論
CXMTの第5世代DRAM量産開始だけで、現在のメモリ好況が終わったと考える必要はありません。
AI向け需要は依然強く、今回の主力製品はHBMそのものでもありません。
一方で、これまでの市場では「需要が急増しているのに、供給を増やせる会社が限られている」ことが、大手メモリメーカーの高い価格と利益率を支えてきました。
CXMTの技術進歩は、その供給を増やせる会社が限られているという前提を少し変え始めています。
投資家がこれから見るべきなのは、AI需要が伸びるかどうかだけではありません。需要の伸びより供給の伸びが速くなる瞬間が来るかです。
メモリ企業の価値を大きく動かすのは、まさにその境目です。
出典:Reuters(2026年9月20日)、TrendForce(2026年9月7日)、Micron Technology 2026年度第3四半期決算、Micron Form 10-Q(SEC)。本記事は公開情報を基にした分析で、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。