世界の金融市場で、久しぶりに「金利がもっと上がるかもしれない」という空気が強くなっています。
すべての国が同じ方向に動いているわけではありません。ただ、主要国では9月に入って金融引き締めの動きがはっきりしてきました。米国のFRB(米連邦準備制度理事会)は9月16日に政策金利を0.25%引き上げ、3.75〜4.00%にしました。ECB(欧州中央銀行)も9月10日に0.25%利上げし、預金ファシリティ金利を2.50%へ。日銀も9月18日に政策金利を1.25%へ引き上げています。英国は3.75%で据え置きましたが、9人の委員のうち3人は4.00%への利上げを主張しました。 (Federal Reserve) (ECB) (日本銀行) (Bank of England)
長期金利も上がっています。9月15日には、G7の10年国債利回りの平均が4.285%と2008年以来の高水準になり、米10年国債利回りは一時5.041%まで上昇しました。日本の10年国債利回りは3%を超え、ドイツや英国でも長期金利が数年〜数十年ぶりの水準まで上がっています。 (Reuters)
ここで気になるのは、やはり「では、株は下がるのか?」だと思います。
先に結論を言うと、金利上昇は株にとって逆風ですが、「金利が上がったら株は必ず下がる」というほど単純ではありません。見るべきなのは、金利上昇が株価に伝わる3つの経路です。
この記事のポイント
- 金利上昇は、まず株の「評価倍率」を押し下げる方向に働く。
- 次に、住宅・設備投資・借入などを通じて企業利益そのものを弱らせる可能性がある。
- 一方で、景気や企業利益が強ければ、金利上昇の逆風を利益成長が打ち消すこともある。
- 米10年国債が5%前後になると、株は以前より魅力の高い債券と競争しなければならない。
- したがって大切なのは「金利が上がったか」より、なぜ上がったのかを見ること。
まず、「金利上昇=株安」になる理由
株価は、企業が将来生み出す利益や現金を、今の価値に置き直して考えることができます。
例えば、10年後にもらえる100万円を考えてみます。安全な金利がほぼ0%なら、10年後の100万円と今の100万円の差はそれほど大きくありません。しかし、安全な債券で毎年5%近い利回りを得られるなら、10年後の100万円を受け取るために今100万円を払う魅力は下がります。
株でも同じことが起きます。将来の利益を現在価値へ換算するときに使う「割引率」が上がるためです。割引率とは、簡単に言えば「将来のお金を今の価値に直すとき、どれだけ差し引くか」を決める率です。
安全な国債で得られる金利が上がれば、投資家はリスクのある株にはそれ以上のリターンを求めます。そのため、企業の利益予想が同じでも、株価に払ってよい金額は低くなりやすくなります。
これが一つ目の経路です。
金利上昇 → 投資家が求める収益率が上がる → PERなどの評価倍率に下押し圧力
PERは「企業の1年分の利益に対して、株価が何倍まで買われているか」を示す代表的な指標です。将来の大きな成長を期待して高いPERが付いている企業ほど、金利上昇の影響を受けやすい傾向があります。
二つ目は、企業の利益そのものが弱くなる経路
金利上昇の影響は、株の値段の付け方だけではありません。
住宅ローン、自動車ローン、企業の借入、社債などの金利も上がりやすくなります。すると家計は住宅や高額商品を買いにくくなり、企業は新しい工場やデータセンターなどへの投資を慎重にします。借金が多い企業では、利払い費も増えます。
つまり、
金利上昇 → 借りるコストが上昇 → 消費・投資が鈍化 → 売上や利益に下押し圧力
という二つ目の経路があります。
このため本当に怖いのは、「株の評価倍率が下がる」と「企業利益が下がる」が同時に起きることです。
逆に、景気が非常に強く、企業利益が大きく伸びているなら話は変わります。評価倍率が少し下がっても、利益の増加で株価を支えることができるからです。
だから、金利が上がっても株が上がることがある
9月18日の米国市場は、この点をよく表しています。
米10年国債利回りが5%前後という高い水準にありながら、S&P500は0.17%上昇、NASDAQ総合指数も0.40%上昇しました。半導体株の上昇が市場を支えたためです。つまり、1日の値動きだけでも「金利が高いから株は必ず下がる」という関係ではありません。 (Reuters)
株価をかなり単純化すると、
企業利益 × その利益に何倍まで払うか
で考えられます。
金利上昇は後半の「何倍まで払うか」にはマイナスです。しかし企業利益が十分に増えれば、株価全体は上昇できます。
したがって、株を見るときは金利だけでは不十分です。利益成長と金利をセットで見る必要があります。
三つ目は、「株を買わなくても5%近く取れる」という変化
今回、長期投資家にとって特に重要なのがここです。
米10年国債利回りは一時5%を超えました。国債の利回りは将来のリターンを完全に保証するものではありませんが、信用リスクの低い債券では、購入時の利回りは中長期リターンを考える重要な出発点になります。
低金利時代には、安全な債券の利回りがほとんどなかったため、多少株価が高くても「株を持たないとリターンを得にくい」という状況がありました。
しかし、国債で5%前後の利回りが得られる環境になると条件が変わります。
投資家は、
「値下がりする可能性のある株を持つなら、5%近い国債よりどれくらい高いリターンを期待できるのか?」
と考えるようになります。
これは株式に求められるハードルが上がったということです。
もちろん、米国債を円で買う日本の投資家には為替変動があります。また、途中で売れば金利変化による価格変動もあります。そのため「米10年債5%=日本人が必ず5%稼げる」という意味ではありません。
それでも、世界の資産価格を考えるうえでは、米国債の5%前後という利回りは無視できない比較対象です。
では、今の金利上昇はどのタイプなのか
今回の金利上昇には、いくつかの要因が重なっています。
一つはエネルギー価格です。中東情勢の長期化で原油価格が100ドルを超える状態が続き、中央銀行は「物価がもう一度上がり続けるのではないか」と警戒しています。Reutersによると、FRB・ECB・日銀が相次いで利上げし、英国も将来の利上げ可能性を示しています。 (Reuters)
もう一つは、景気が予想より粘っていることです。FRBは9月声明で、米国の経済活動は「solid pace(堅調なペース)」で拡大し、国内支出も底堅いと評価しました。景気が簡単には崩れないなら、中央銀行は高い金利を長く維持しやすくなります。 (Federal Reserve)
さらに長期金利には、政策金利の予想だけでなく、国の借金が増えて国債の供給が多くなることや、長期間お金を貸すリスクへの上乗せ金利も影響します。9月15日の世界的な債券安でも、インフレだけでなく政府債務や国債供給への懸念が指摘されました。 (Reuters)
つまり現在は、単純な「景気が強いから金利が上がる」だけではありません。
エネルギー高によるインフレ懸念 + 景気の底堅さ + 国債需給への不安
が重なった金利上昇です。
株にとって最も厳しいのは「悪い金利上昇」
金利上昇を二つに分けると理解しやすくなります。
良い金利上昇は、景気が強く、企業利益が伸びるために金利も上がる状態です。この場合、株の評価倍率には逆風でも、利益成長がその一部を打ち消します。
悪い金利上昇は、景気が弱いのに、原油高や供給制約などでインフレだけが高く、中央銀行が金利を下げられない状態です。
この場合は、
利益が伸びにくい + 高金利で評価倍率も下がる
という二重の圧力がかかります。
いわゆるスタグフレーションです。スタグフレーションとは、景気が弱いのに物価上昇が続く状態です。中央銀行は「景気を助けるために金利を下げたい」と「物価を抑えるために金利を高くしたい」の間で動きにくくなります。
今の市場で最も警戒すべきなのは、金利が5%になったこと自体より、今後の景気が弱くなるのに高金利だけが残るかどうかです。
どんな株が影響を受けやすいのか
一般論では、将来の大きな成長を期待されている高PERの成長株は金利に敏感です。利益の多くが遠い将来に期待されているため、その将来利益を高い割引率で現在価値に直すと、評価額が下がりやすいからです。
一方、銀行などの金融株は「金利上昇だから必ず有利」とも言えません。貸出金利が上がる効果はありますが、景気悪化で貸し倒れが増えたり、長短金利の関係が悪化したりすれば逆風になります。
不動産や公益企業のように借入負担が大きい分野も、高金利が長引けば資金調達コストの影響を受けます。
結局、セクター名だけで判断するより、①負債が多いか、②利益が今出ているか将来に偏っているか、③値上げできる企業かを見る方が本質的です。
現時点の3つのシナリオ
ここからは公表済みデータを整理したシナリオであり、確定した予測ではありません。
- 中心シナリオ:高金利は続くが、景気も大きく崩れない
企業利益が持ちこたえる一方、PERの拡大は起きにくい。株価は利益成長により依存する市場になる。 - 株に厳しいシナリオ:エネルギー高が長引き、景気も悪化する
企業利益の下方修正と高い割引率が同時に起きる。株式には最も厳しい組み合わせ。 - 株に追い風となるシナリオ:原油とインフレが落ち着き、長期金利も低下する
企業利益が大きく悪化しなければ、株の評価倍率への圧力が弱まりやすい。
重要なのは、「金利が下がれば必ず株高」でもないことです。深い景気後退で金利が下がる場合は、企業利益の減少が株価を押し下げる可能性があります。
これから何を見ればいいのか
今後は、政策金利そのものより次の4点を見ると状況を整理しやすくなります。
- 米10年国債利回り:5%前後が定着するのか。
- 実質金利:物価上昇分を除いても安全資産の利回りが高い状態が続くのか。
- 企業利益予想:高い金利でも利益成長が維持されるのか。
- 原油と基調インフレ:エネルギーだけの物価上昇なのか、サービスや賃金まで広がるのか。
特に、金利上昇と同時に企業利益予想まで下がり始めるなら、株式市場にとって状況は一段厳しくなります。
結論
世界の主要中央銀行が再び利上げ方向へ動き、長期金利も上昇しています。
ただし、ここからすぐ「金利上昇だから株を売る」と考えるのは単純すぎます。
金利上昇が株に効く経路は、少なくとも3つあります。
① 株の評価倍率を下げる。
② 借入コストを通じて企業利益を弱らせる。
③ 国債という競争相手の魅力を高める。
その一方で、企業利益が強く伸びれば、金利上昇の逆風を打ち消すこともできます。実際、米10年金利が5%前後でも9月18日のS&P500とNASDAQは上昇しました。
長期投資家にとって今いちばん大切なのは、毎日の金利の上下を当てることではありません。
「なぜ金利が上がっているのか。その理由は企業利益にも悪いのか。それとも景気が強いからなのか」
ここを分けて考えることです。
金利が高いことそのものより、高い金利と弱い利益が同時に来るかどうか。これが、これからの株式市場を見るうえで一番重要なポイントになりそうです。