アメリカで再び利上げが現実味を帯びてきました。
昨夜発表された8月の消費者物価指数(CPI)は、前月比で0.4%上昇しました。7月の0.1%から大きく加速しています。
さらに、その前日に発表された生産者物価指数(PPI)も前月比0.4%上昇。8月の雇用者数も16.2万人増と強く、FRBが来週のFOMCで利上げするとの見方は市場で8割を超えるところまで上昇しました。(Reuters)
一見すると、「アメリカのインフレが再燃した」と言いたくなる数字です。
ただ、今回のデータを少し細かく見ると、そこまで単純ではありません。
この記事のポイント
* 8月CPIは前月比0.4%上昇し、インフレ懸念を強めた
* ただし大きな原因の一つはガソリン価格の上昇
* 食品とエネルギーを除くコアCPIは前年比ではむしろ2.4%に低下した
* 一方で前月比のコアCPIは0.3%と予想より強く、完全に安心できる内容でもない
* 強い雇用もあるため、FRBはインフレ抑制を優先して利上げしやすい環境になっている
* 米国株にとって重要なのは「9月に利上げするか」だけではなく、「その後も利上げが続くのか」だと考えています
8月CPIが強かった最大の理由はエネルギー
8月のCPIは前月比0.4%、前年比3.4%でした。
中でも目立ったのがガソリンで、1か月で3.9%上昇しています。原油価格は中東情勢の悪化を背景に100ドルを超えており、9月11日時点でもブレント原油は1バレル104.61ドルでした。(Reuters)
つまり、
原油上昇 → ガソリン上昇 → CPI上昇
という流れがかなり入っています。
ここで重要なのが「基調インフレ」です。
基調インフレとは簡単に言えば、ガソリンのように一時的に大きく動く価格を除いても、幅広いモノやサービスの値上がりが続いているかを見る考え方です。
今回、食品とエネルギーを除くコアCPIは前月比0.3%上昇しました。市場予想の0.2%より強い数字です。
しかし前年比では2.4%で、7月の2.5%からわずかに低下しています。(Reuters)
ここはかなり重要だと思います。
「CPIが0.4%も上がった」=「基調インフレまで急激に悪化した」ではありません。
ただし、エネルギーだけの問題とも言えない
一方で、今回のデータを「全部原油のせいだから問題ない」と考えるのも早そうです。
前日に発表された8月PPIは前月比0.4%、前年比5.4%上昇しました。
確かに、生産者物価でもエネルギーの影響はかなり大きいです。
モノの生産者価格は1.1%上昇し、そのうちエネルギーは4.2%上昇。ディーゼル燃料に至っては1か月で24.1%上昇しました。
しかし、食品・エネルギー・流通マージンを除いたPPIも前月比0.3%、前年比4.7%上昇しています。(Bureau of Labor Statistics)
つまり今の状況は、
「エネルギーだけが上がっている」
というほど単純でもありません。
エネルギーがインフレを押し上げている一方で、その外側にも一定の価格上昇圧力が残っています。
それでも、まだ「全面的なインフレ再燃」とは言い切れない
私はここで、少し慎重に見ておきたいです。
直近で利用できるDallas FedのTrimmed Mean PCEは、7月時点で前年比2.3%でした。
Trimmed Mean PCEは、極端に上がったものと極端に下がったものを除き、物価の中心部分を見る指標です。
ガソリン価格が突然上がった場合などに影響されにくいため、物価全体に値上げが広がっているかを見るのに役立ちます。
7月時点では、この指標は2%台前半にとどまっています。なお8月分の更新は9月30日の予定なので、今回の原油高が基調インフレにどこまで広がったかはまだ確認できません。(ダラス連邦準備銀行)
だから現時点の私の見方は、
インフレ再燃のリスクはかなり高まった。しかし、幅広い物価が再び加速する局面に完全に入ったとまでは確認できていない
です。
それでもFRBが利上げしやすくなった理由
問題は、インフレだけではありません。
8月の雇用統計では非農業部門雇用者数が16.2万人増え、失業率は4.1%のままでした。(Bureau of Labor Statistics)
景気や雇用が急速に悪化しているなら、FRBは「物価は高いけれど、利上げすると景気を壊してしまう」と考える必要があります。
しかし現在は雇用がまだ比較的強い。
するとFRBには、
景気を守るために急いで金利を下げる必要があまりなく、むしろインフレを抑えることに集中できる
という余裕があります。
CPI発表後、市場が織り込む9月の利上げ確率はおよそ85%まで上昇しました。FOMCは9月15~16日に開かれます。(Reuters)
米国株には何が重要なのか
ここから米国株を見る場合、私は「9月に利上げするかどうか」だけを見てもあまり意味がないと思っています。
既に市場は利上げをかなり織り込んでいます。
むしろ重要なのは、
9月の利上げだけで済むのか、それとも利上げが何度も続くのか
です。
米10年国債利回りは一時4.99%近くまで上昇しました。5%が視野に入っています。(Reuters)
長期金利が高くなると、株式には二つの逆風が生まれます。
一つは、企業の借入コストが上昇すること。
もう一つは、安全性の高い国債でも高い利回りが得られるようになり、高い株価を正当化しにくくなることです。
特に現在のように株価が既に大きく上昇している局面では、これは無視しにくいと思います。
ただし、9月11日の米国株は主要3指数とも1%以上上昇しました。
原油が一時の高値から下落したことで、「インフレがさらに悪化する」という懸念が少し和らいだことが一因です。(Reuters)
市場もまだ、インフレ再燃を完全には決め打ちしていないように見えます。
今後見るべきもの
ここからのシナリオは、大きく二つだと考えています。
原油高が続き、それが輸送費や商品価格、サービス価格へ広がるなら、基調インフレも再び上昇する可能性があります。
その場合、
インフレ再燃 → FRBの追加利上げ → 長期金利上昇 → 米国株への圧力
という流れが強まりそうです。
反対に、原油価格が落ち着き、今後のコアインフレやTrimmed Meanなどが2%台前半にとどまるなら、今回のCPI上昇はエネルギーショックの色が強かったことになります。
その場合は、9月に利上げしたとしても、その後何度も利上げする必要性は低下します。
今のところ私は、前者を無視できなくなったものの、まだ後者の可能性もかなり残っていると考えています。
最後に
この数日でアメリカの金融環境はかなり変わりました。
原油100ドル超、PPI上昇、CPI上昇、強い雇用。
少し前まで「次はいつ利下げするか」を考えていた市場が、今では「何回利上げするのか」を考え始めています。
これは大きな変化です。
ただし、今回のCPIだけを見て「インフレ再燃が確定した」と考えるのはまだ早いと思います。
8月CPIの上昇にはエネルギーの影響がかなりあります。一方でコアCPIの前月比やPPIには、エネルギー以外のインフレ圧力も見えています。
したがって現時点では、
「インフレ再燃かどうかを疑う段階」から、「再燃の証拠が増えてきたので警戒を強める段階」に一歩進んだ
くらいが適切だと思います。
次に確認したいのは、原油価格そのものよりも、原油高がほかの価格へ広がるかです。
そこまで確認できれば、本格的なインフレ再燃と判断する根拠はかなり強くなると思います。
利上げが現実味を増したアメリカ、それでもインフレ再燃はまだ「全面的」ではない
8月CPI・PPI・雇用から、利上げ可能性は高まった一方でインフレ再燃が全面的とは言い切れない理由を整理します。
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身で行ってください。