9月11日金曜日、少し不思議なことが起きました。
アメリカの8月CPIが発表され、インフレは決して弱くありませんでした。市場では、翌週のFOMCでFRBが0.25%利上げするとの見方が約85%まで上昇しました。
普通に考えれば、これは株には悪材料です。
ところがS&P500は約1.0%、Nasdaqも約1.1%上昇しました。10年国債利回りは一時5%近くまで上昇したものの、その後は少し低下しています。 (Reuters)
なぜでしょうか。
私はここが、今の相場を見るうえで一番重要だと思っています。
CPIは悪かった。しかし「最悪」ではなかった
8月のCPIは前月比+0.4%、前年比+3.4%でした。
ただし内訳を見ると、ガソリン価格が1か月で3.9%上昇し、CPI全体の上昇の3分の1以上を占めています。
一方、食品とエネルギーを除いたコアCPIは前月比+0.3%、前年比では2.4%。前年比は7月の2.5%からむしろ少し低下しました。 (Bureau of Labor Statistics)
つまり、
「インフレが再び全面的に加速した」
とまでは、まだ言えません。
確かに警戒すべき数字です。しかし現時点では、エネルギー価格上昇の影響がかなり大きい。
生産者物価も似ています。
8月PPIは前月比+0.4%、前年比+5.4%まで上昇しましたが、モノの価格上昇の4分の3以上はエネルギー価格の上昇によるものでした。サービス価格は前月比+0.1%です。 (Bureau of Labor Statistics)
だから金曜日の市場は、
「FRBの利上げはありそうだ。しかし、何度も連続して利上げしなければならないほどインフレが広がったとはまだ決まっていない」
と受け取ったのだと思います。
ここでいう「85%織り込み」とは、FRB自身が85%と言っているわけではありません。金利先物などの価格から、市場参加者がかなり高い確率で利上げを予想している、と読み取れるという意味です。
しかも景気は、まだ利上げに耐えられそうに見える
もう一つ重要なのが景気です。
8月の雇用者数は16.2万人増え、失業率は4.1%で横ばいでした。しかも6月と7月の雇用者数は合計5.5万人上方修正されています。 (Bureau of Labor Statistics)
Atlanta FedのGDPNowも、9月10日時点で7〜9月期の実質GDP成長率を年率4.4%と推計しています。もちろんGDPNowは確定値ではありませんが、少なくとも現時点で「景気後退が目前」という数字ではありません。 (アトランタ連邦準備銀行)
これはFRBにとって重要です。
景気や雇用が急速に悪化していれば、インフレが高くても利上げは難しくなります。
しかし現在は、
インフレは高い。一方で景気と雇用はまだ比較的強い。
この組み合わせなら、FRBは景気を壊すことを強く恐れて利上げを諦める必要性が、今のところそれほど高くありません。
実際、7月のFOMCでは政策金利を3.50〜3.75%に据え置いたものの、12人中3人が0.25%の利上げを主張していました。次回FOMCは9月15〜16日です。 (連邦準備制度理事会)
だから金曜日は株が上がった
ここまでなら、金曜日の株高は理解できます。
市場にとって本当に怖いのは「0.25%の利上げが1回あること」だけではありません。
もっと怖いのは、
インフレが再加速して、FRBが何度も利上げしなければならなくなることです。
金曜日には原油価格も下落しました。Brent原油は一時1バレル約110ドルまで上昇した後、104ドル台まで下がりました。
つまり、
CPIは悪い
→ 9月利上げの可能性は上がった
→ しかしインフレのかなりの部分はエネルギー
→ その原油価格が金曜日には下がった
→ 「利上げ1回程度で済むかもしれない」
という安心感が生まれた。
これが、利上げ観測が強まったのに株価が上がった理由として、一番自然だと思います。 (Reuters)
ところが週末、その前提が変わった
問題はここからです。
米国市場が閉まった後、中東情勢がさらに悪化しました。
サウジアラビアは、攻撃を受けた東西パイプラインを安全確認のため一時停止しました。このパイプラインは、ホルムズ海峡を通らずに紅海側へ原油を運べる非常に重要な代替ルートで、最大で日量約500万バレルを運ぶ能力があります。
同時に、イランと関係の深いフーシ派が、紅海の入口にあるバブ・エル・マンデブ海峡周辺への支配を強めています。 (Reuters)
ここは誤解してはいけません。
パイプラインの能力が日量500万バレルだからといって、世界の石油供給が突然500万バレル減ったわけではありません。
しかし、
ホルムズ海峡が不安定なときに使うはずだった「逃げ道」まで不安定になった
ことには意味があります。
しかも9月14日月曜日にオマーンで予定されている協議についても、イラン当局者はホルムズ海峡をめぐる合意がその日に署名される可能性を否定しています。 (Reuters)
つまり金曜日に株を押し上げた
「原油価格が落ち着けば、利上げは1回程度で済むかもしれない」
というシナリオの前提が、週末になって少し危うくなりました。
来週、本当に見るべきもの
私は、9月16日にFRBが利上げするかどうかだけを見ても不十分だと思います。
もっと重要なのは、
今回のエネルギーショックが、ガソリンだけで終わるのか。それとも運賃、物流費、商品の価格、さらにサービス価格まで波及するのか。
という点です。
原油が高止まりして物流費が上がり、それが幅広い物価へ移っていけば、「一時的なエネルギーショック」から「持続的なインフレ」へ話が変わります。
その場合、FRBは9月に1回利上げして終了ではなく、追加利上げを考えなければならなくなる可能性が高まります。
逆に、サウジのパイプラインが早期に復旧し、紅海やホルムズ海峡の緊張も和らぎ、原油価格が下がれば、今回のCPI上昇はエネルギー中心だったという見方が強まります。
株式にとっては「1回の利上げ」より「何回になるか」が重要
金利が高くなると、安全な国債でも高い利回りを得られるため、投資家が株式に要求する収益率も高くなります。
すると、同じ利益を出す企業でも「以前と同じ高いPERを払う必要はない」と判断されやすくなります。
これが、金利上昇が株価のバリュエーションを押し下げる基本的な仕組みです。
特に10年国債利回りは現在5%近くまで上昇しています。
ただし、「10年金利が上がった=FRBが利上げするから」と単純には考えません。長期金利には将来の政策金利予想だけでなく、インフレへの警戒や、長期債を持つために投資家が要求する追加利回りである「タームプレミアム」も含まれるからです。
したがって来週は、株価そのものより、
原油 → インフレ予想 → FRBの追加利上げ予想 → 長期金利
という順番を見るほうが、相場の変化を理解しやすいと思います。
現時点の3つのシナリオ
以下は市場が公表している確率ではなく、現在までのデータから私が記事用に置く暫定的なシナリオ配分です。
シナリオ
確率
投資への意味
9月0.25%利上げ後、様子見。原油も次第に安定
50%
景気が強ければ米株は耐えられる。ただし高金利でPER上昇余地は小さい
エネルギー高が長期化し、物価へ波及。追加利上げ観測が強まる
35%
長期金利上昇+企業コスト増の二重苦。高PER株には特に厳しい
9月は据え置き、またはインフレ懸念が急速に後退
15%
金利低下ならグロース株には追い風。ただし現時点では少数シナリオ
この確率は固定しません。
原油が上昇を続ければ2番目を引き上げます。
逆にパイプラインが早期に再開し、中東情勢が沈静化し、コアインフレにも波及が見られなければ1番目をさらに引き上げます。
結論
金曜日の米株高を見て、
「市場はインフレを心配しなくなった」
と考えるのは早いと思います。
むしろ金曜日の上昇は、
利上げ1回くらいなら、今の強い景気は耐えられる
という相場だった可能性が高い。
ところが週末になって、サウジの代替石油輸送ルートと紅海航路という新しい問題が加わりました。
だから来週のポイントは、単純に「FRBは利上げするか」ではありません。
今回のエネルギーショックが、利上げを1回で終わらせるのか、それとも2回、3回と続けさせるのか。
私はそこが、米国株の次の方向を決める分岐点になると見ています。
利上げ観測85%でも米株は上がった。だが週末に「安心材料」が消えた
利上げ観測が強まっても株が上がった理由と、週末のエネルギー供給リスクで変わった前提を整理します。
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身で行ってください。