「S&P500は、もう一部の巨大企業に偏りすぎているのではないか」。

AI相場が続き、指数の上位銘柄が大きくなるほど、この不安は強くなります。実際、2026年8月に改訂された最新研究では、S&P500の上位7社だけで時価総額のおよそ3分の1を占めると整理されています。

ただし、この研究の面白いところは「だから危険だ」と結論づけていないことです。

この記事の要点
2026年の最新研究が示しているのは、「市場が集中していること」と「大型株が割高であること」は別問題だということです。

市場集中そのものは、歴史的に異常とも、将来リターンの強い予測材料とも言えません。一方で、巨大企業が市場全体よりどれだけ高い評価倍率で買われているかというvaluation wedge(評価倍率の差)は、その後2〜5年の相対リターンと関係していました。

つまり今見るべきなのは、「上位銘柄の比率が何%か」だけではなく、その成長に対して、すでにどこまで高い価格を払っているかです。

最新研究は「集中=暴落サイン」という単純な話を否定している

今回の中心にする研究は、Per Bye、Jens Sørlie Kværner、Bas J. M. Werkerによる“Market Concentration and the Valuation Wedge”です。2026年1月に公開され、8月28日に改訂されています。

研究者たちは、現在の米国株について「7社でS&P500のおよそ3分の1」という高い集中度を確認したうえで、長期データや海外市場と比較しました。

そこで出てきた結論は、少し意外です。

2026年の研究が分けた「集中」と「割高」

Market Concentration and the Valuation Wedge の中心結果

見るもの研究結果投資家にとっての意味
市場集中度高いが、歴史的に前例がないわけではない「集中している」だけでは売買判断になりにくい
集中度と将来リターン集中度そのものは将来リターンを予測しない上位10社比率など1つの数字だけで相場を読まない
valuation wedge大きいほど、その後2〜5年の大型株の相対リターンが低い傾向「大企業だから」ではなく「成長に対して何倍払うか」が重要
企業の成長大型企業は実際に相対的に強いファンダメンタル成長を示す良い企業と良い投資対象は同じとは限らない
出典:Bye, Kværner, Werker, Market Concentration and the Valuation Wedge, revised Aug. 28, 2026

ここで重要なのは、巨大企業の成長が偽物だと言っているわけではないことです。

研究では、上位企業はその後も相対的に強いファンダメンタル成長を示しました。アナリストもその成長をある程度予想しています。それでも、出発点の評価倍率が高すぎると、その後の株価リターンは相対的に低くなりやすかった、というのが研究者たちの解釈です。

「最高の企業を買えば最高の投資になる」とは限らない

投資では、企業の質と株式の期待リターンを分けて考える必要があります。

たとえば、利益が毎年大きく伸びる企業でも、その成長がすでに株価へ十分以上に織り込まれていれば、投資家が受け取るリターンは低くなることがあります。

逆に、成長率がそれほど高くない企業でも、価格が十分に低ければ、投資家のリターンが高くなることがあります。

今回の研究が示しているのは、この「企業として強い」と「株として安い」を混同しないという基本原則です。

同じ「巨大企業」でも、投資判断は価格で変わる

研究結果を投資家の問いへ置き換えた整理

状況考え方注意点
利益成長が強い企業価値にはプラスすでに高い成長を価格に織り込んでいる可能性
指数内の比率が高い市場価値が大きいことを示すそれ自体は割高・割安を意味しない
市場より評価倍率が大幅に高い将来成長への期待が大きい期待を少し下回るだけでも相対リターンが低下しやすい
「集中」と「価格」を分けるための概念整理。主研究の結果をもとに作成。

ただし、別の2026年研究では「リスクの集中」は本当に高まっている

ここで「では集中はまったく気にしなくてよいのか」と考えるのは早すぎます。

Steven Thorley、Roger Clarke、Harin de Silvaによる2026年6月の研究は、米国の大型500銘柄を約100年にわたって調べ、単なる時価総額比率ではなく株価変動まで含めた“リスクの集中”を分析しています。

歴史的には、大型株は小型株より値動きが比較的穏やかだったため、時価総額が一部企業へ集中していても、ポートフォリオのリスクはそれほど集中しない時期が多くありました。

しかし研究者によると、2020年代はこの関係が持続的に逆転した初めての時期で、大型株のボラティリティも高まり、リスクベースの分散度は歴史的な低水準にあります。この傾向は主要な海外指数でも確認されたとしています。

ここは2つの研究を一緒に読むと分かりやすい
集中度が高い → 将来リターンが悪いとは限りません。
一方で、指数のリスクが少数銘柄へ偏ることは、分散投資の観点から無視できません。

つまり「集中しているから売る」ではなく、期待リターンの問題と、ポートフォリオのリスク配分の問題を別々に考える必要があります。

Thorley, Clarke, de Silva, Equity Market Concentration: Implications for Index Risk and Active Management, 2026

さらにややこしい。集中は「割高」だけでなく「割安」を生む可能性もある

2026年9月に改訂されたNBERの研究 “The Hidden Cost of Stock Market Concentration” は、もう1つ重要な反証を示します。

米国の投資信託には、一定以上の集中を避けるための規制上の制約があります。市場全体が一部の巨大株へ集中すると、ベンチマークに近い運用をしたいファンドでも、その巨大株を十分に持てない場合が出てきます。

研究では、制約に近づいたファンドは最大保有銘柄を減らし、株式全体の比率も下げ、制約を受けたファンドのパフォーマンスが悪化する傾向が確認されました。

研究者たちは、これは強気の投資家が買いたくても十分に買えないため、一部の大型株が逆に過小評価される可能性を示すと解釈しています。

つまり、集中市場では「人気が集まるから必ず割高になる」という一方向の説明でも足りません。

Pástor, Sikorskaya, Wang, NBER Working Paper 35007, revised Sep. 2026

では2026年9月の今、何が刺さるのか

いまこの研究を読む意味は、米国株が「高いか安いか」だけではありません。

Vanguardが2026年6月30日時点の市場データで計算した長期見通しでは、米国株の今後10年の名目年率リターン予想は4.2〜6.2%。3月末時点の4.9〜6.9%から低下しました。理由として、株価上昇によって米国株の評価がさらに高くなったことを挙げています。

ただしVanguard自身も、バリュエーションは短期〜中期のリターン予測には弱く、資産配分を変える主な理由にすべきではないと明記しています。

「今の米国株」を1つの数字で判断しない

2026年の研究とVanguardの最新見通しを合わせた整理

視点現在わかっていること誤解しやすい点
集中度上位7社でS&P500の約3分の1集中だけでは将来リターンを予測しにくい
評価倍率大型株と市場の倍率差が大きいと、その後の相対リターン低下と関連企業の高成長が否定されたわけではない
リスク集中2020年代は歴史的に高い水準との研究銘柄数が多いだけでは十分な分散とは限らない
長期期待リターンVanguardの米国株10年予想は年率4.2〜6.2%短期の下落時期を予測する数字ではない
Vanguard Capital Markets Model forecasts, Jul. 22, 2026

S&P500やオルカンを持つ人は、何を変えるべきなのか

研究から「S&P500を売るべき」「米国株を減らすべき」という個別の結論は出せません。むしろBen Felix型に考えるなら、研究結果をそのまま売買指示へ変換しないことが重要です。

実務上は、次の順番で考える方が筋が通ります。

  • 第1に、集中度だけを理由に市場から降りない。 主研究では集中度そのものに強い予測力はありませんでした。
  • 第2に、自分のポートフォリオ全体の集中を確認する。 S&P500だけでなく、勤務先株、個別のAI株、NASDAQ系ファンドまで重ねていると、指数以上に同じ企業へ偏っていることがあります。
  • 第3に、長期の期待リターンと短期のタイミングを分ける。 高い評価倍率は長期の期待リターンを押し下げる可能性がありますが、「来月下がる」という情報ではありません。
  • 第4に、分散は“銘柄数”ではなく“リスク源”で考える。 海外株、債券、現金などを含む資産配分は、巨大株7社の比率だけを見るより重要です。

この研究の弱点も見ておきたい

今回取り上げた中心研究と補助研究はいずれも2026年時点のworking paperを含みます。査読済みの最終的な学術コンセンサスではありません。

また、「valuation wedgeが大きいと将来リターンが低い」という関係も、未来を確定する法則ではありません。巨大企業が市場予想をさらに上回る利益成長を続ければ、現在の高い倍率が結果的に正当化される可能性があります。

一方で、期待された成長を実現しても、最初に支払った価格が高すぎればリターンが低くなる可能性もあります。

だからこそ、今回の研究は「AI企業は本物か偽物か」ではなく、「本物の成長に、いくら払うのか」という問いへ戻してくれます。

結論
2026年の最新研究をまとめると、S&P500の集中を見てすぐ「危険だから売る」と考えるのは単純すぎます。

集中そのものは、将来リターンの強い予測材料ではない。
しかし、巨大企業に対して市場よりどれだけ高い価格を払っているかは、その後2〜5年のリターンを考えるうえで重要かもしれない。さらに、2020年代はリスクの集中も歴史的に高い可能性があります。

今のインデックス投資家に必要なのは、「S&P500は終わりか」を当てることではありません。企業の質、支払う価格、ポートフォリオ全体の分散を分けて考えることです。

※本記事は学術研究・機関投資家の市場見通しを紹介するもので、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。Working paperの結果は今後改訂される可能性があります。Vanguardの期待リターンはモデルによる確率的推計であり、実際の将来収益を保証するものではありません。