アメリカ経済に少し気になるズレが出てきました。
経済指標を見る限り、景気はまだかなり強いです。
Atlanta FedのGDPNowは、7〜9月期の実質GDP成長率を年率**4.4%**と予測しています。8月の雇用者数も16.2万人増え、失業率は4.1%で変わっていません。少なくとも数字だけを見れば、アメリカが今すぐ景気後退に向かっているようには見えません。(アトランタ連邦準備銀行)
ところが、アメリカ人自身はかなり悲観的になっています。
9月のミシガン大学消費者信頼感指数は、8月の51.7から47.8へ低下しました。さらに、消費者が予想する1年先のインフレ率は4.0%から**4.6%**へ上昇しています。5年先のインフレ予想も3.4%まで上がりました。(Institute for Social Research)
私は、このズレが今後のアメリカ経済を見るうえで重要になりそうだと思っています。
この記事のポイント
* GDPや雇用を見る限り、米景気はまだ強い
* 一方、消費者心理は急速に悪化している
* 特に気になるのは「これからも物価が上がる」という予想が強まったこと
* 原油高が実際のCPIだけでなく、人々のインフレ心理にも波及し始めている可能性がある
* 景気が強いままインフレ期待が上がれば、FRBは利上げしやすくなる
景気が悪いから消費者が悲観しているわけではなさそう
消費者心理が47.8まで下がった数字だけを見ると、
「アメリカはもう景気後退に近いのではないか」
と思いたくなります。
しかし、今のところ他の数字はそれをあまり支持していません。
GDPNowは4.4%。雇用者数は8月に16.2万人増えました。
さらにAtlanta Fedの賃金上昇率トラッカーも8月は**4.1%**まで上昇しています。(アトランタ連邦準備銀行)
つまり、
仕事が大きく失われ、所得が急減しているから消費者心理が悪化している
という典型的な景気後退とは少し違います。
むしろ今は、
経済は成長しているのに、生活者は物価高によって豊かになった感覚を持てない
という状況に近そうです。
ガソリン価格は心理にも効く
前回の記事では、原油高が8月CPIを押し上げたことを書きました。
しかし、原油高の影響はCPIの数字だけではありません。
ブレント原油は今週100ドルを超え、一時110ドル近くまで上昇しました。11日は104ドル台まで下落しましたが、それでも1週間では8%以上高い水準です。(Reuters)
ガソリンは、多くの消費者が頻繁に価格を見る商品です。
そのためガソリン価格が上昇すると、
「最近また物価が上がっている」
という印象を消費者が持ちやすくなります。
今回、1年先のインフレ予想が4.6%まで上昇した背景にも、燃料価格の上昇があるとミシガン大学の調査は示しています。(Reuters)
ここは、実際のインフレ率とは少し分けて考える必要があります。
インフレ期待とは、「これから物価がどのくらい上がると思っているか」です。
実際に4.6%上がるという予測ではなく、消費者がそう感じ始めているという意味です。
なぜFRBはインフレ期待を気にするのか
消費者が「これからも物価がかなり上がる」と思うだけなら、問題はないようにも見えます。
しかし、それが長く続くと話が変わります。
例えば、働く人が
「来年も物価が5%くらい上がる」
と思えば、それに見合った賃上げを求めやすくなります。
企業側も、
「仕入れ価格や人件費はこれからも上がる」
と思えば、先に商品価格を引き上げる可能性があります。
こうして、
物価上昇を予想する → 賃金や価格設定が変わる → 本当に物価が上がる
という循環が生まれることがあります。
もちろん、今回の調査1回だけでそこまで進んだとは言えません。
特に1年先のインフレ期待はガソリン価格などに大きく左右されるので、かなり動きやすい指標です。
それでも5年先の予想まで3.4%に上がっている点は、少し注意しておきたいです。(Reuters)
もう一つ気になるのは「消費の二極化」
消費者全員が同じように苦しくなっているわけでもなさそうです。
Atlanta Fedが9月2日にまとめた地域経済報告では、低・中所得層では生活費上昇による負担が強まり、クレジットカードや短期融資などを生活必需品に使うケースが増えている一方、高所得層の高級品・高級サービスへの支出は依然強いとしています。(アトランタ連邦準備銀行)
これは、今の数字の矛盾をある程度説明できます。
高所得者が消費を続ければ、
GDP全体は強い
状態を維持できます。
一方で、多くの家計が物価高に苦しめば、
消費者心理は悪い
ままになります。
つまり、「景気が良いか悪いか」という一つの数字だけでは見えにくい状況になっています。
FRBには利上げする余裕がある
そして、この組み合わせはFRBにとって重要です。
もし消費者心理が悪化し、同時に雇用やGDPまで急激に悪くなっているなら、FRBは利上げしにくくなります。
しかし現状は違います。
雇用は増えている。
GDPNowも4%を超えている。
その一方で、実際のインフレ率は高く、消費者のインフレ期待まで上昇しています。
するとFRBから見れば、
景気を守るために急いで金利を下げる必要はなく、インフレを抑えることを優先しやすい
環境になります。
Atlanta Fedの市場指標では、9月10日時点で9月16日の利上げ確率は92.38%まで上がっていました。(アトランタ連邦準備銀行)
米国株にとっては少し嫌な組み合わせ
短期的には米国株はむしろ上昇しました。
11日のS&P500は0.86%上昇しています。
原油価格が一時の高値から下がったことや、CPIが市場の最悪予想ほど強くなかったことなどが安心材料になりました。(Reuters)
ただ、私はもう少し先を見ておきたいです。
米10年国債利回りは一時5%目前まで上昇しています。(Reuters)
もし、
景気は強い
+ インフレは高い
+ インフレ期待も上昇
+ FRBが追加利上げ
となれば、金利が高い状態は長引きやすくなります。
これは株式、特に高い評価を受けている銘柄には次第に重荷になります。
今のところ景気後退を心配する局面ではない
今回の消費者心理悪化を見て、すぐに景気後退を予想する必要はないと思います。
むしろ現在の問題は逆です。
経済が弱すぎることよりも、経済がまだ強いためにインフレを冷ますのが難しいこと
の方が重要に見えます。
前回の記事では、「インフレ再燃の証拠が増えてきた」と書きました。
今回はそこからもう一段進んで、
原油高が実際の物価だけでなく、人々のインフレに対する考え方まで変え始めていないか
を見る必要が出てきたと思っています。
ただし、まだ結論を急ぐ必要はありません。
9月のミシガン大学調査はまだ速報値です。最終値は9月25日に発表されます。(Institute for Social Research)
原油価格が落ち着けば、短期のインフレ期待も再び下がる可能性があります。
反対に、原油が100ドルを超えた状態が続き、長期のインフレ期待までさらに上昇するなら、FRBにとってはかなり厄介な問題になります。
今は、
「実際のインフレが再燃するか」だけでなく、「インフレ再燃を人々が信じ始めるか」
も確認したい局面に入ったと思います。
景気は強いのに消費者は弱気、アメリカで始まった厄介なズレ
GDPや雇用は強いのに消費者心理は弱い。物価高とインフレ期待が生み始めた米国経済のズレを考えます。
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身で行ってください。