2026年9月、米国債券は大きく売られました。長期金利は約20年ぶりの高水準まで上がり、債券を持っている投資家には「また2022年のような大損になるのではないか」という不安が出やすい局面です。

Vanguardの分析は9月24日時点のデータを使っていますが、その後も債券安は続きました。Reutersによると、9月の米10年国債利回りは2022年以来の大幅な月間上昇となりました。

しかし、債券では「いま価格が下がっていること」と「これから数年の期待リターンが悪いこと」は同じではありません。

この記事の要点
Vanguardによると、Bloomberg米国総合債券指数(Agg)は2026年9月24日までに年初来約2.5%下落する一方、指数の利回りは年初から約1.2ポイント上昇しました。短期では金利上昇が価格を押し下げますが、利回りが高くなるほど、その後は受取利息と高い利回りでの再投資が効きやすくなります。

つまり、債券安は痛みであると同時に、将来リターンの土台を作り直す過程でもあるということです。

まず整理:なぜ金利が上がると債券価格は下がるのか

債券価格と利回りは反対方向に動きます。たとえば、既存の債券が年3%の利息しか払わないのに、新しく発行される債券が年5%を払うようになれば、年3%の古い債券は同じ価格では売れません。価格が下がることで、買い手から見た利回りが市場水準へ近づきます。

このため、金利上昇の最初の影響は価格下落です。一方で、値下がりした後に新しく債券を買う人や、満期・利払いを高い金利で再投資できる人にとっては、将来得られる収益の出発点が改善する方向に働きます。

この2つを分けないと、「債券価格が下がった=債券の魅力が永久に下がった」と誤解しやすくなります。

2022年と2026年は、同じ「債券安」でも出発点が違う

Vanguardが今回もっとも強調しているのは、2022年との違いです。

2022年と2026年の債券安は何が違う?

Bloomberg U.S. Aggregate Bond Index。2026年は9月24日時点。

比較2022年2026年
債券指数のリターン-13%年初来 約-2.5%
利回りの出発点歴史的に低い水準2022年より高い利回りから開始
金利上昇へのクッション受取利息が小さく、価格下落を吸収しにくい受取利息が大きく、価格下落を一部相殺しやすい
データ出典:Vanguard, How 2026 may set the table for stronger bond returns(2026年9月28日)

2022年は、もともとの利回りが非常に低いところから急激な利上げが始まりました。受け取れる利息が小さいため、金利上昇による価格下落を吸収するクッションがほとんどありませんでした。

2026年も金利上昇は痛いのですが、VanguardによるとAggの利回りは年初から約120bp、つまり1.2ポイント上がっています。ここでいう利回りは、いまの価格から見た将来収益の出発点です。クーポンだけでなく、債券価格と償還価値の差なども含めて考える指標なので、「毎年そのまま同じ利息を受け取れる」という意味ではありません。

この「出発点の利回り」が高くなったことが、2027年以降を考えるときに重要になります。

なぜ「高いスタート利回り」が将来リターンにつながるのか

債券のリターンを単純化すると、短期では次の2つがぶつかります。

① 金利上昇による価格下落
② 高くなった利回りから得るインカムと再投資効果

金利が急に上がった直後は①が勝ちやすいため、債券価格は下がります。しかし時間がたつほど、②の収益が積み上がり、満期を迎えた債券や受け取った利息をより高い利回りで再投資できます。

このため、保有期間が長くなるほど「今日の価格変動」よりも投資開始時の利回りがリターンを説明しやすくなります。

Vanguardだけの主張ではない

ここは重要です。Vanguardの最新記事だけを見て「高金利なら債券は必ず儲かる」と結論づけるのは危険です。そこで、別の研究も確認します。

Financial Analysts Journalに掲載された研究では、一定のデュレーションを維持する債券ポートフォリオを分析し、複数年の保有期間では年率リターンがスタート時の利回りへ近づく性質を示しました。1977〜2011年の米国債利回りを使ったシミュレーションや、実際の債券指数を使った検証でも同じ方向の結果が確認されています。

さらにFTSE Russellが2026年6月に公表した分析でも、国債指数ではスタート利回りとその後のリターンに強い相関があり、投資期間と債券の満期ゾーンが近いほど関係が強くなると報告しています。

「今の利回り」を将来リターンの手掛かりにできる根拠

研究ごとに対象や期間は異なるため、同じ数値として比較するものではありません。

資料確認したこと投資家への意味
Financial Analysts Journal一定デュレーションの債券では、複数年リターンがスタート利回りへ近づく短期の価格変動だけで将来収益を判断しない
FTSE Russell 2026国債指数のスタート利回りと将来リターンに強い相関投資期間と債券の期間を合わせて考えることが重要
Vanguard 20262026年の利回り上昇で、将来の収益の出発点が改善現在の損失と今後の期待リターンを分けて考える
主な資料:Financial Analysts Journal, Long-Term Bond Returns under Duration Targeting / FTSE Russell, What a carry-on: starting yields as a valuation tool for sovereign bonds / Vanguard

過去にも「金利が上がっている最中」に債券は反転した

Vanguardは、2026年と比較する歴史例として1999年と2018年を挙げています。

金利上昇のあと、債券市場はどう動いたか

Vanguardが示した代表例。過去の再現を保証するものではありません。

年その年に起きたことその後
1999年米国債利回りが約1.7ポイント上昇。FRBも0.75ポイント利上げ2000年に債券市場は上昇。FRBの利下げ開始より前に反転
2018年FRBの引き締めで利回り上昇。Aggのリターンはほぼ横ばい2019年のAggは+8.7%
2026年Agg利回りが年初から約1.2ポイント上昇将来リターンの土台は改善。ただし結果はまだ未確定
データ出典:Vanguard

ここで面白いのは、債券市場がFRBの利下げを待ってから上がったわけではないことです。2018年には10年国債利回りが3.24%でピークをつけた後、FRBがまだ利上げを続けている段階から低下し始め、2019年8月の最初の利下げ前には1.9%まで下がっていました。

市場は「今日の政策金利」よりも、「この先の景気・インフレ・政策がどう変わるか」を先回りして価格に反映します。だから「FRBが利下げしたら債券を買う」という判断では遅れる場合があります。

では、いま米国債を買えば安全なのか

ここで結論を強くしすぎないことが大切です。スタート利回りが高いことは中期リターンの土台を改善しますが、短期損失を消すわけではありません。

特に長期債は、金利がさらに上がると価格が大きく下がりやすい資産です。インフレが再加速する、財政赤字や国債供給への懸念が強まる、FRBが想定以上に利上げする、といった場合には、利回りがさらに上がって債券価格が下がる可能性があります。

また、社債では金利だけでなく信用リスクがあります。景気が悪化すれば国債利回りが下がっても、企業の信用スプレッドが広がり、社債価格が下がることがあります。

日本の投資家には「為替」という別の変数もある

米国債券のドル建てリターンが改善しても、日本円で投資する場合は為替の影響を受けます。

為替ヘッジをしない米国債券なら、円高が進むとドル建ての利益が円換算で削られる可能性があります。逆に円安なら上乗せになります。

為替ヘッジをする場合は、日米の短期金利差などを反映したヘッジコストがかかります。したがって、日本の投資家が見るべきなのは「米国債の利回りが高いから、その水準をそのまま円で得られる」という単純な話ではありません。

ドル建て利回り、債券の期間、為替ヘッジの有無、自分が保有できる期間をセットで考える必要があります。

投資判断では「いつ金利が下がるか」より「何年持てるか」を先に決める

今回の研究から一般投資家に引き直すと、重要なのは金利の天井を当てることではありません。

まず、債券を何のために持つのかを決めます。数年以内に使う資金なのか、株式の値動きを抑えるためなのか、退職後の安定収入なのか。目的が違えば、適切な債券の期間も変わります。

そのうえで、投資期間と債券ポートフォリオのデュレーションや満期ゾーンを近づけるほど、スタート利回りを中期リターンの目安として使いやすくなります。逆に、1〜2年しか持てないのに20年・30年の長期債で金利低下を狙うのは、研究が示す「長期で利回りへ収束する」考え方とは別の、金利予想への賭けに近くなります。

結論:2026年の債券安は「将来の利回りを買い直す」局面でもある

2026年の債券安は、保有者にとって実際の損失です。そこを「長期では大丈夫」と軽く扱うべきではありません。

ただし、債券の特徴は、価格が下がって利回りが上がるほど、そこから先の収益条件が改善することです。Vanguardの最新分析、一定デュレーションの債券研究、FTSE Russellの国債分析はいずれも、スタート利回りが中期の債券リターンを考える重要な手掛かりであることを示しています。

だから、いま見るべき数字は「今年いくら損したか」だけではありません。

現在の利回りは何%か。自分は何年持てるのか。その期間に見合う債券を持っているか。

債券投資では、この3つを分けて考えると、価格下落のニュースだけに振り回されにくくなります。

主な出典:Vanguard(2026年9月28日)、Financial Analysts Journal、FTSE Russell(2026年6月25日)、Reuters(2026年9月30日)